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話の途中で電話を切られてしまい、少し残念そうにする伊織。肩を竦めながら、スマホに送られてきた資料に目を通す。
「……なるほど。確かにこの『相棒』がいれば、爆弾だけが見つかったところで、未完成のものとして処理させることが出来ますね。スティンクらしい、何とも狡いやり口で」
眼鏡の奥に殺気を隠し、獲物を狙う体勢に入る。すると、それを台無しに……、……いや、抑えるように、隣の男の子が声をかけた。
「……イオ、行くの?」
「ええ。すみませんね、途中で切り上げることになってしまって」
「んーん、いいよ。これ、ありがと」
両腕で大事そうに抱えていたペンギンのぬいぐるみを少し前に出し、わかりづらい程度に微笑む。しかし、それだけで伊織の心臓は撃ち抜かれてしまった。
「〜〜〜! ……気に入って頂けたのなら、何よりです」
「うん、大事にするね」
「ええ、ええ……! 貴方はきっと、そうしてくださるでしょう……!そしてその優しさが、僕の胸にも癒しを届けてくれているのですよ……!」
「……? そっか」
多分、伊織のテンションの半分もついていけてないが、とりあえず返事をしている。
首を傾げる人形のような胡桃の愛らしさを、いつまでも眺めていたい衝動を抑え、伊織は灰色の髪を撫でた。
「……胡桃くん。今日は、素敵な時間をありがとうございました。叶うなら、また、一緒に出かけられたら嬉しいです」
「……うん。俺も、楽しかった。また行こうね」
「はい、必ず」
微笑み合う空間の、何と穏やかなことだろうか。嵐の前の静けさとは、このことなのかもしれない。
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