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名残惜しいが、そろそろ別れの時間だ。伊織は背筋を伸ばすと、スマホで地図を表示した。
「では、僕はそろそろ行きますね」
「……イオ、何か手伝えること、ない? 仕事、キョウからなんでしょ?」
「ええ、まあ……そうですね」
小首を傾げておねだりするような仕草に、直視出来ないまま悩んだ。爆弾魔が関係しているとあらば、あまり危険なことには巻き込みたくない。
「……では、もしもこの女性を見かけたら、私に連絡をもらえますか?」
そう言って、先程鏡矢から送られた写真を見せる。ジッと見て、こくんと頷く。
「うん、わかった」
「ありがとうございます。その時、もし可能なら、女性に気づかれずにコレを付けて頂けると嬉しいです」
伊織の鞄から出てきたのは、小さな小さな機械。……発信機だ。
「ん、やってみる」
「よろしくお願いしますね」
何故そんなものを持っているのか。その疑問が出てこない時点で、胡桃も慣れたものだ。……いや、これは元からの性格かもしれないが。
「イオ」
「……? どうしました?」
「……ふぁいと?」
あまり使ったことがないのか、首を傾げながらガッツポーズを送る。慣れない仕草のあどけなさに、伊織の目が眩まないわけがない。
「……この仕事、明日でも良いですかね?」
「行かないの?」
「…………行ってきます」
名残惜しいと背中に書きながら、伊織はその場をあとにした。
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