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中編
伊織からの連絡が来るまで、少しの暇を持て余す。簡単に昼食を摂り、猫のマグカップにコーヒーを淹れて一息吐いた。
待ち侘びていた通信は、思ったより早く来た。
「鏡矢さん、着きましたよ」
「おー、さんきゅ。早かったね?」
「ええ。バスがちょうど良い時間がありましたので」
そう言ってる間に、目的のドアの前に辿り着いたらしい。家の周りを確認した伊織から、何やら不穏な声が聞こえる。
「電気がついていないところを見るに、留守ですね。……ふふ。どうします? 時間がないんですよね?」
「そんなことは言ってない……」
「まあ、この程度なら、すぐ終わりますよ」
「悪いヤツ……」
突っ込む割に止めない鏡矢も、共犯であることは明白だろう。金属音が響いたかと思えば、ものの数秒でカチャリという音を鳴らす。
「はい、終わりました」
「……ほんと、お前にストーカーされたら色々ヤバそうだよな」
「おや、して欲しいんです?」
「んなわけ」
「ふふ、冗談ですよ」
雑談を交えつつ扉を開くと、外の雑音が一気に途絶える。そして、いつもの通りに一直線に、折り畳まれた機械の前まで進んだ。
「……さて。グレーと言い張る色から、白を抜いて差し上げましょうか」
電話の奥の伊織は、黒いショーティーグローブを嵌め直し、眼鏡を通して鋭い視線を送っていた。
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