プロローグ

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 日が沈み、街の灯りが海に映る。夜でも賑やかな街の片隅のレストランは、その彩りの一端を終わらせようとしていた。 「じゃあ、俺はお先に失礼しますね」 「ああ、稲羽さん。今日もありがとうございました。またお願いします」 「ええ、ではまた」  長い髪で作った尻尾を揺らして、軽く会釈して出て行く。好青年らしい彼は、どこか中世的で、女性らしい顔立ちと言ってもおかしくはない。  店を出ると、その表情を消しての顔をする。 (また……か。もう粗方のことは調べ終わったし、潜入する必要もなくなったからなぁ。今のシフト終わったらやめて、次のとこ行こ)  夜に合わせてきた上着の首元を緩め、繁華街の信号が変わるのを待つ。  この世は、彼にとって仕事道具で溢れていた。人によっては不快でしかない喧騒が、次の仕事に繋がることだってある。だから彼は、常に周りにアンテナを張っている。どんなも、自分の益にするために。 「やあ、お姉ちゃん1人? 今向こうの店で飲んでんだけど、一緒にどう?」  ……まあ、こんなものは有益な情報なわけがない。典型的な酔っ払いのナンパである、という教科書に載せられるくらいだ。 (かよ……めんどくさ)  しかも、声をかけられているのは、彼本人なのだ。頭痛のタネでしかない状況に、心の中で大きな大きな溜息を吐く。くるりと振り向いて愛らしい笑みを浮かべたのも一瞬で、その声で男の時間を止めた。 「俺、男だから」 「……は?」  蔑むように言い放ち、その場を離れて行く。その後ろ姿は、やはり美女にしか見えないから不思議だ。
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