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急展開に脳がオーバーヒートを起こしたらしく、鏡矢は突飛なことを口にする。
「……俺、今ならくるみんが実は異世界から来たよって言われても納得するわ」
「ふふ……なるほど。あの愛らしい姿も、この奇跡と呼べる現象も、全て人智を超えた力ということですね……?」
鏡矢と一緒に言動をおかしくする伊織。だが、こんな茶番を続けている時間はない。もう全てを受け止める覚悟を決めた鏡矢は、パソコンをメールファイルから街の監視カメラに接続し始める。
「伊織、胡桃との電話、俺にも繋げて!」
「かしこまりました」
伊織も切り替えたらしく、テキパキ行動する。10秒後には繋がったもう1つの音に、鏡矢は耳を傾けた。噴水か何かのノイズをバックに、全く覇気のない声が登場する。
「もしもし?」
「あ、胡桃か? 急で悪いんだけど、聞きたいことがある。犯人とはいつ接触したんだ?」
「ん……えっとね、さっき、公園でお話したよ」
逸る気持ちに反し、胡桃は至って平常運転だ。少し考える間が、どんどん焦燥感を削いでいく。
「お話したんですか……」
「うん。ペンギンの話したよ。弟のお友達なんだって」
「ちょっとそれはよくわかんないけど、公園ってのは横浜公園かな。今近くにいるみたい」
どんどん胡桃の世界に飲み込まれていく伊織の代わりに、鏡矢はカタカタとタイピングを進めた。
「あんま動いてないな……。くっそ、そこカメラないから、もっと大通り出ろよ……!」
犯人に対して何という無茶振り。その間に移動する準備をしていたらしい伊織は、再び外の雑音の中に溶け込んだ。
「とにかく、僕は犯人を追います。鏡矢さんは、出来る限り情報を集めていてください。胡桃くん、その方は、何か大きな荷物は持っていましたか?」
「ううん、持ってないよ」
「だとしたら、もう設置済み……なんてことも考えられますね」
「そうだな……くっそ、設置場所さえ分かれば時間遡って見れるのに……!」
時間が無い以上、犯人の捜索だけでは不十分だ。欠けたピースを埋めるため、大人2人は奔走した。
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