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焦る気持ちをなるべく抑え、貴重な情報源である胡桃に優しく聞いていく。
「他には何か書いてなかった?」
「ん……? 縦棒が入った丸が、いっぱい? 並んでた」
また新しい単語。鏡矢は久しぶりに天井を眺めた。
「縦棒の入った丸……何かの記号でしょうか」
「記号……Φとか?」
「数学で用いる記号が大量に書いてあることと、Jackという名前らしき単語とは、何の関係が?」
「……違うか」
なぞなぞを前にしたように頭を働かせて考えるが、これはゲームではない。拾えるヒントは全て拾う勢いで思い返し、初めの会話を当たってみる。
「胡桃は、さっきのJackって単語のこと、どうしてペンギンの名前だと思ったんだ? ペンギンの話をしたって言ってたけど」
「……ぬいぐるみ」
「ぬいぐるみ??」
また斜め上からの奇襲攻撃。何故、仲間との会話でこれほど頭を抱えなければならないのだろうか。一瞬思考を放棄しかけたが、伊織の言葉でなんとか運転を保つ。
「ああ、先程胡桃くんに購入したぬいぐるみが、ペンギンなのですよ」
「へえ……なるほどね。……ん?」
嫌な予感がする。
「じゃあそれ、弟が好きなのって、ぬいぐるみのことじゃない?」
「ああ……うん、そう」
「じゃあペンギン関係ないじゃん!!」
「そうなんだ?」
数秒前の予想通り、振り出しに戻ってしまった。名前でない以上、もはや単語は何の意味を持つのかもわからない、謎の代物に変わってしまう。
「困りましたね……」
「なんだよぉ……Jackってぇ……。バスとか船をジャックするとか? もうそんくらいしか出てこない……」
「そうですね。後、横浜でJackと言えば……」
そこで、何を見たのだろうか。伊織はふと、目的地を見つけたように声を上げた。
「……そうか」
「え? 何?」
「鏡矢さん。もしかしたらこれは、トランプのことかもしれません」
外界の突風が作り出すノイズに混じって、聴き間違いかと思うほど関連性が見えない話が舞い込んだ。
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