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後編
突然の方向転換に、鏡矢は思わず転びかける。トランプは、伊織にとって1番身近な存在だが、今ここで出てくる意味がわからない。
「トランプ?」
「ええ。鏡矢さんは、横浜でキングやクイーンに準えた呼び名のある施設を、ご存知ですか?」
「は? そりゃ知ってるよ。キングは神奈川県庁。クイーンは横浜税関。そんで、……!」
そこまで考えて、鏡矢もようやく伊織の思考に追い付いた。
「『ジャック』、横浜市開港記念会館!」
「恐らく。僕の見立てが間違いでなければ、Jackとはジャックの塔のことです」
神奈川を代表する街の1つである横浜には、多くの重要施設が備わっている。その中でも代表する建造物の一角が、『キング』『クイーン』『ジャック』からなる、横浜三塔だ。
ようやく兆しが見えたが、まだ推測の段階だ。もう一歩確証が欲しい。
「じゃあ、謎の記号の意味は?」
「これも僕の見解ですが、縦棒とは、Φのように円形に突き刺されたものではないのだと思います。そうですよね、胡桃くん?」
「うん。丸の中に入ってた」
「やはり、そうでしたか」
真実を掴みつつあり、僅かに声が弾む伊織。鏡矢も必死に頭を働かせる。
「えーっと、それはつまり……?」
「記号ではなく、絵として想像してください。時計の文字盤……6時を差す形と考えれば、全てに説明がつくでしょう?」
そのとき鏡矢の頭の中で、伊織に言われた図形と、記憶の中のジャックの塔が1つに重なった。
「……! そうか! 犯行時刻の18時になった瞬間、装置が作動するよう想像したんだ!」
「描かれていたのは、想像力が低下した大人でも鮮明に想像し、誤作動をなくすための予行演習……といったところですか。起爆装置が『相棒』である爆弾を、時限爆弾としたカラクリですね」
「ったく、ホントに面倒なことを……! でも、候補の場所さえ絞れれば……!」
大きく深呼吸して、脳内を落ち着かせる。ただ、自らの『相棒』に意識を集中させて。
「……頼みましたよ、鏡矢さん」
そんな伊織の声を最後に、意識をデータの海に潜らせた。
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