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信頼できる『相手』と1つになる感覚が、鏡矢は嫌いじゃない。その多くの選択肢の中から、必要な情報だけを分けていった。
時計塔の周りの映像を、今日の明方から再生していく。あらゆる角度から、何も見逃さないように――。
「……!! 見つけた!!」
叫んだときには、目の前の画面は映像を一時停止させていた。そこには、明らかに怪しい鞄を置いていく、犯人の姿が映っている。
「間違いない! 爆弾が仕掛けられたのは、横浜市開港記念会館だ!」
「やはりそうでしたか。ならば、時計塔の時計を想像したという見立ても、あながち間違いでも無さそうですね。でなければ、紙にわざわざJackと書き記す意味がなくなる……」
「ああ。より具体的に想像したいなら、ヒントはなるべく多い方がいい」
見解が同じだということをすり合わせ、信憑性を高めていく。……そして、同時に解決策も浮かんでいることを確かめる。
「……でも、それなら止められないことはない」
「ええ、そうですね」
「そうなんだ?」
自信に満ち溢れた2人に反し、極限まで存在感を消していた胡桃は全く追いついていないことをようやく宣言する。だが、そんな彼こそが、2人の考える打開策の鍵なのだ。いつまでも呆けられていては困る。
「胡桃。今すぐ時計塔まで行って、時計を止めてくれ!」
「……? 止めるの?」
「うん。時計が18時になったら、爆弾が爆発する。その前に止められるのは、胡桃だけだ!」
「……わぁ」
簡潔な説明に、思わず気のない返事が出る。だが、これはやる気がないのではなく、思考がゴールテープを切った音だ。
「胡桃くん、僕もすぐに合流します。ですが、この現状を打破出来るのは、君だけです。お願い出来ますか?」
機械が流す音声からも、期待がひしひしと伝わっただろう。胡桃は、少しの力を込めて応えた。
「……わかった、頑張る」
「頼んだよ、胡桃!」
力強く送り出した後、鏡矢はもう1度、会話を反芻する。
「……弟、ねぇ」
何かの手がかりになるかもしれない。そう思い、犯人の個人的な部分に触れていった……。
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