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家に着くまでの道中、彼の頭の中はハリケーンのように荒れていた。
(ほんっと、ああいうヤツって目ぇついてないのか!? 別に女装してるわけでもないし! どう考えても男だろ! 小さいからか!? ○ね!)
その後も、地上波だったら放送出来ないような単語で溢れさせた。
部屋に入ると、すぐに動きやすい格好に着替え、洗面台へ。鏡と向かい合って、何度も見た自分の姿に近づく。その瞳を少し弄ると、黒いフィルムが剥がれて、本来の色を露にする。
(潜入のたびカラコンってのも面倒だけど、これじゃ目立つもんなぁ)
右は宝石を映したような深紅。左は蕩けるような蜂蜜色。数回瞬きして、見飽きた異色の存在を、少し編み込んだ黒髪のカーテンで隠した。
飲み物を取り、仕事部屋で息を吐く。椅子に座ると画面を黒くした機械たちに囲まれるこの部屋は、どこか落ち着く。
(さてさて、何か新しい案件があったりしないかねぇ?)
仕事前のメール確認は、彼……仔猫鏡矢の日課だ。開いた1つのパソコンが、新着情報を簡潔に教えてくれる。
「ん? マジでメール来てる。しかも、おっちゃんから?」
マウスを手慣れた様子で動かし、用件だけがぶっきらぼうに書かれた本文を開く。
「全く、誰かさんと一緒で人使い荒いんだから。ま、いいけどね。その分は踏んだくるし」
この時、どこかでくしゃみしているであろう人物は置いておいて。
溜息を吐く素振りを見せるものの、その表情はどこか嬉しそうだ。鏡矢にとって、『おっちゃん』と呼ぶほどに親しみを持つ葛葉隆二という存在は、それだけ頼られたい相手なのだろう。
恩返しの意味も込めて。
「さてと、始めましょうかね」
そばにある機械たちを起こして、今夜も鏡矢の仕事の時間が始まった。
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