前編

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前編

 何事もない、穏やかな日常。そんな文言がただのまやかしだということは、誰もが知っているはずだ。でなければ、連日配信されるニュースは、明るいものだけで埋め尽くされているだろう。  パソコンの前でボーッと記事を眺める鏡矢もまた、陽だまりでのんびりし続けているわけではない。今見ているのは、ここ最近横浜を騒がせている爆破事件についてだ。 「郊外の廃墟が爆破されて大騒ぎ、怪我人はゼロ。警察は未だに爆弾の詳細も把握出来てない……か」  最後に付け足された情報に関しては鏡矢の独自ルートによるものなので、言及は避けよう。  この事件は、周りに店もなければ住宅もない場所で行われていたため、目的が何1つハッキリしない不気味なものだった。世間も、怪我人がなければ関心を向ける頻度も減る。 「けど、こういうちょっとしたのに、裏があったりするんだよねぇ」  『ちょっとした』の基準がおかしい気もするが、数々のコインの裏側を見てきた鏡矢からしたら、本当にその通りなのだ。仕方がない。 「まずは、犯人の特定からかな。周りに防犯カメラは……なし? うげぇ。まあ、あったら警察もとっくに当たってるわな。」  頬杖をついて不満げにしつつ、片手で操作して現場近辺の地図を見やる。 「んー、この辺からでいいかな。コンビニとかのカメラハッキングして、当時の映像漁って〜」  さらっと違法なことをやり遂げるが、指示されているパソコンも特に不満は言わない。慣れた様子で読み込んでいく。 「その間に、この辺を普段使ってる人のピックアップっと。照合できるようにセットして〜」  カチカチ、カチャカチャ、と、忙しないクリックとタイピングの音が響く。緊急の案件でもないため、今回は『相棒』として動かす能力は使っていない。 「はい、完成。黒猫ちゃん特製、怪しい人発見システム〜♪ ……我ながら名前ダサいな」  そんな1人ツッコミをしながら、膨大なカメラの映像と睨めっこする時間が続いた。
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