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集中していれば時間というものはあっという間に過ぎるもので、もうそろそろ昼食の時間になる。小腹が空いたところで、準備に入ろうかと席を立ったときだった。
鏡矢のスマホに、一件の着信。名前を見て、すぐに緑の表示をスライドさせた。
「はーい、もしもし?」
「ああ、鏡矢くん? 私、彩果だけど。今いい?」
「ん、平気〜。どした?」
電話の相手は、鏡矢も気心の知れた鳥家彩果だ。お淑やかな声は、その人の品性が窺える。
「鏡矢くん、もしかして今、横浜の廃墟爆破事件について調べてるんじゃない?」
「おー、よくわかったね」
「そのことについて、新しい情報があるの。聞く?」
「マジ? いくら?」
「お金なんていらないわよ。……その代わり、解決に動いてもらうから」
彩果の提案は、鏡矢にとって好機でしかなかった。信頼している相手ということもあり、すぐに交渉しようとしたが、何やら不穏な気配を感じる。
「……どゆこと? 俺、ただの情報屋だし、買ってくれる人いなきゃ動くことは……」
「犯人は、スティンクの可能性が高いのよ」
「……!」
その一言で、鏡矢は反論することをやめた。
「スティンク相手なら、『貴方たちの領域』でしょう?」
「……話、聞かせて」
「ええ」
真剣な顔で大きく息を吸い、これからのことを見積りつつ耳を傾けた。
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