前編

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 集中していれば時間というものはあっという間に過ぎるもので、もうそろそろ昼食の時間になる。小腹が空いたところで、準備に入ろうかと席を立ったときだった。  鏡矢のスマホに、一件の着信。名前を見て、すぐに緑の表示をスライドさせた。 「はーい、もしもし?」 「ああ、鏡矢くん? 私、彩果だけど。今いい?」 「ん、平気〜。どした?」  電話の相手は、鏡矢も気心の知れた鳥家彩果(とりやあやか)だ。お淑やかな声は、その人の品性が窺える。 「鏡矢くん、もしかして今、横浜の廃墟爆破事件について調べてるんじゃない?」 「おー、よくわかったね」 「そのことについて、新しい情報があるの。聞く?」 「マジ? いくら?」 「お金なんていらないわよ。……その代わり、解決に動いてもらうから」  彩果の提案は、鏡矢にとって好機でしかなかった。信頼している相手ということもあり、すぐに交渉しようとしたが、何やら不穏な気配を感じる。 「……どゆこと? 俺、ただの情報屋だし、買ってくれる人いなきゃ動くことは……」 「犯人は、スティンクの可能性が高いのよ」 「……!」  その一言で、鏡矢は反論することをやめた。 「スティンク相手なら、『貴方たちの領域』でしょう?」 「……話、聞かせて」 「ええ」  真剣な顔で大きく息を吸い、これからのことを見積りつつ耳を傾けた。
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