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鏡矢がきちんとコミュニケーションを保とうとしていることが確認でき、彩果は満足そうにした。
「そう、ちゃんと親孝行してるってわけね。なら安心だわ」
「何を心配されてたんだか……」
お節介な会話に溜息を吐き、同い年の相手にすることじゃないぞと抗議する。はいはいと受け流した彩果は、最後に一言添えた。
「……調べ、頼んだわよ。【黒猫】ちゃん」
「ん、任せて」
互いの役割を確かめ合い、そのまま通話を終了した。椅子に深く沈み込むと、天井を見上げて会話を思い返す。……そして、最後に話題になった人のことを考える。
「……親、か。確かに、あれが親だったら……なんて、考えたことないわけないよな」
互いに素直に話したことなど、数えるほどしかないだろう。憎まれ口を叩くことが、鏡矢に与えられた日常だった。呆れ顔を作りながら、自然と頬が緩む。
「明るい世界なんて、もう見られないと思ってたのに。強引なんだもんなぁ、ほんと」
それからというもの、新たに軽く接することのできる相手が増え、仲間が増え、笑顔でいることの方が多くなった。
そんな日々が、身体中に浸み込んで、いつしか無くなることが考えられなくなっていた。
「……まあ、向こうは、そうは思ってないんだろうけど……」
相手がどう思っているかなんて、完全にわかる訳がない。そんな思考が思い出を横切り、鼓動を鈍くする。
その一瞬、部屋がひどく広がった気がした。
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片や、電話の向こうにいた彩果。長い長い廊下の片隅で、苦い顔をしていた。
「……ごめんなさいね、鏡矢くん。けど、この世界のためには、貴方たちの力が必要なの。……きっと、ね」
未来のためだと言い聞かせ、無理矢理にでも前を向いてヒールを鳴らした。
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