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「直人はまだまだこれからだから。まだまだ伸びるから」
隼人の励ましに直人はうんと頷く。ヤバい。私まで涙が出てきた。
「良かったよぉ」
大陸も泣いている。小さな一歩なのかも知れないが、泣くほど喜んで何が悪い?
道行く人たちは私たちのいるベンチを避けて行くが、だから何だ。仲間が好きなことで認められることを泣くほど喜んで何が悪い?
「ふぇーーん!」
私は声を出して泣いた。直人の努力は何十年も努力している人に比べたらずっと少ないだろう。時間が短くても直人は努力したんだ。私たちといるときもこまめに小説について調べて、何度も試行錯誤を重ねて。それはライバルの隼人だって分かってる。
「結、泣きすぎだよ……」
直人がつい笑う。
「だって嬉しくて……」
「ははは。嬉しいよな。今日は俺がジュースおごってやるよ全員分」
大陸が立ち上がる。腕で涙を拭いて自販機へと駆けていった。
「あはは。俺の落選は小さなことだよ。まぁ負けないけど」
落選した隼人のことより、受賞した直人のことが嬉しくてつい隼人のことを忘れそうになった。だが隼人だって直人の受賞が泣くほど嬉しいのだ。
大陸が買ってきたオレンジジュースをみんなで飲みながら、直人の作品への選評を読む。粗削りだが斬新という文を見て胸が踊る。
「でも賞金ないのなぁ」
大陸は残念そうに呟いたが、いいじゃないかそこは。
「次は賞金圏内にいくよ。そしたらオレンジジュースのお返しするからさ」
「もうちょっと景気よくいけないの?」
大陸は口を尖らせるが、そのくらいでいいだろ? 直人の賞金なんだから。
「ここ数年で一番泣いたな」
隼人は直人の受賞作品を読み返しながら笑う。うん、私もここ数年で一番泣いた。こんなに嬉しかったのは久しぶりだ。
部活をやめた大陸。小説を書き始めた隼人に続いて、直人にも大きな変化が訪れた。
直人の作家になりたいという夢が現実味を帯びてきた。三人をずっと見てきた私だから、本当に嬉しく思う。無邪気に喜べる大陸も隼人も素敵だ。
「あ、レビューついた」
直人がそう呟き真剣な顔でスマホを睨む。
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