1 再会

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1 再会

 坂本舞は吸い込まれてしまったかのように、その女性をぼんやりと見つめていた。  もっとも印象に残ったのは長いまつ毛に縁どられた黒目がちな大きな瞳だ。美しいけれど知性的でどこか冷たい、水晶のような瞳だった。 「初めまして、隣の部屋に越してきた成瀬です。これからお世話になりますが、どうぞよろしくお願いします」  彼女の横にいた男性の言葉に舞は我に返る。  目の前にいるのはいかにも裕福そうな雰囲気の夫婦で、穏やかで優しそうな夫と、若い美人妻という組み合わせだ。  ある週末の昼過ぎにこの二人は舞の部屋を訪ねてきた。男性の方は舞と同年代か少し上だろうが、女性の方はずっと年下に見える。  化粧っ気もないのに肌は綺麗で、黒々とした長い髪を背中に流している。小柄で童顔だけれど小さな唇は艶々して色っぽく、どこか妖艶な雰囲気さえ感じさせられる。  女性でありながら、舞は本気で彼女に見とれてしまっていた。 「さ、坂本です。こちらこそ、よろしくお願いします」  不審がられないよう、舞も慌てて挨拶を返した。  けれど不思議そうな目で妻の方がこちらを見ていることに気付き、少し動揺してしまう。  なにかおかしかったかしらと不安になっていると、相手は目を丸くして言ったのだ。 「もしかして舞ちゃん?」  驚いて、言葉さえ失ってしまった。  こちらは苗字しか名乗っていないのにどうして下の名前を知っているのだ。  すると相手は目を輝かせて笑った。それまで少し冷たそうな印象すらあったのに、彼女が笑顔を見せた途端に雰囲気が柔らかいものに変化した。 「覚えてない? 中学の同級生の、西田しのぶだよ」  聞き覚えのある名だ。  舞の頭の中に当時の記憶がよみがえってくる。そうだ、確かにそんな名前の女子生徒がクラスにいた。 「うそ、西田さん?」 「今は、結婚して成瀬になったけどね。十五年ぶりかな? 懐かしいなぁ」  目を細めて言うしのぶに、舞は驚きを隠せなかった。
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