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モヤモヤとした気持ちを抱えながらもその日の授業を終え、ようやくのことで放課後を迎えた。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
一人で帰り支度をしていたしのぶは、予想外の言葉に驚いた。
声をかけて来たのは舞だった。
確かに帰り道は同じだが、これまで一緒に帰ることなんてなかったし、向こうから話しかけて来るなんて珍しい。
そういえばいつも舞と一緒に帰っている友達が、今日は学校を休んでいた。
「う、うん。いいよ」
ただのちょっとした気まぐれだと、わかっていた。けれど、しのぶは誘ってもらえて嬉しかった。
それから二人は帰り道を並んで歩いた。
最初の内は学校のことや最近見たテレビについての話をしていたのだが、しのぶの中にある欲求が浮かんだ。
舞に話を聞いてもらいたい。
これまでのことを自分一人で抱えていたくなくて、誰かに相談したいという気持ちになったのだ。
「私ね、悪魔に会ったことがあるの」
道の途中でしのぶが呟いた言葉に、舞は首を傾げた。
「そうなの?」
しのぶは頷く。
ここで言う悪魔とは、あの二人のことだ。彼らの正体は未だによくわかっていないが、しのぶはあえて二人をそう称した。
その内に止まらなくなって、霊感があることやいろんな場所で幽霊を見たことなど、これまでに見た物について堰を切ったように話していた。
だけど舞は、あまりこちらの話を信じてくれていなさそうだ。
「悪魔と幽霊って違うんじゃないの?」
しのぶはどう答えたらいいのかわからないという顔になってしまう。実際にあの二人は幽霊とは違う。
「それは、確かにそうなんだけど。でも本当なんだよ」
もごもごと答えると、舞は困ったような表情で返事をした。
「そっか、すごいね」
呆れているというか、痛々しいと思っているのだろう。
しのぶは肩を落とした。わかっていた。舞もやはり母や兄と同じなのだ。こんな話、普通は信じてもらえない。
だから落胆するのは身勝手だと思ったのだが、やはり心細さを感じてしまう。
それからあっという間に分かれ道にたどり着く。舞とはここでお別れだ。けれど角を曲がろうとしたところで、しのぶは舞を振り返った。
「ねぇ、舞ちゃん」
しのぶは佐藤の家に舞を誘ってみようかと思った。あの二人の不思議な力を目の当たりにしたら、舞にもわかってもらえるかもしれない。自分の話が嘘ではないと理解してもらえるかもしれない。
心の中の悪い部分が、そうしろと囁いてくる。
けれどしのぶは、その思いをぐっとこらえた。
「今日は、一緒にお喋りできて楽しかったよ。また明日ね」
手を振って、舞とはそこで別れた。
なんてことを考えてしまったのだ。
舞とは仲良くしたいと思っていたけれど、さすがにあの二人と会わせたら彼女を危険に巻き込みかねない。
だからしのぶは、一人でなんとかすることにした。
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