信号待ち

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信号待ち

交差点で青信号になるのを待っている 1月なのに 日差しが暖かい 私の生まれた街では こんな1月はなかった 日差しが私をあたためている 冬が優しいなんて 知らなかった 小春日和が本当に存在するなんて 体験するまで 理解できなかった 赤信号が点滅して 青に変わって 私は コートのえりを立てることもせず 歩き出す 早足で歩くと汗ばむ冬があるなんて この街に住むまで 知らなかった 雪から足を守るためではなく オシャレのために ブーツを履くなんて テレビの中の出来事で 私には無関係だと思ってた この街の1月はあたたかいけれど この街には 私の幼なじみも、両親も従兄弟たちも 優しい叔母もいない 知り合いは 勤務先の先輩と上司だけなのに 私は笑って生きている なんの後ろ盾もないのに ちゃんと仕事を見つけて 備え付けのテレビと冷蔵庫と電子レンジのあるアパートを借りて 生きている 泣かないで生きている 家出してきたのに 生きている 契約社員で働いている 車の通らない道路の赤信号を 青になるまで 生真面目に待つ人々の住む街で 待ちきれずに私は歩き出してしまうけれど 見知らぬ人のおっとりとしたその様子が美しくて この街が好きになっている
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