天国に届けたい

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天国に届けたい

新婚の頃 夕ご飯時に 父が遊びに来ると言うので かぼちゃを煮つけた 上手くいったと思って きっと褒めてもらえると思って 父の前に差し出したのだけれど 一口食べて 父は 「ああ、これはダメだ」 と言った 父は料理人で 教えるのは下手だけれど 作るのは誰よりも上手い人だった たくさんの料理人友達もいた ダメだと言って箸をおき 「おまえに料理を教えてやれずに 嫁に行かせたのを後悔してる」 と言われた そして かぼちゃの煮付けのコツを教えてくれた それ以来 私のかぼちゃの煮付けは家族にも大変好評 しかし 失敗作のあとに 父にかぼちゃの煮付けを 振る舞う機会には 恵まれないまま 父は胃癌で天に召されてしまった 久しぶりに かぼちゃの煮付けを作り始めて 火加減を お鍋のグツグツと煮立つ音で 加減できるようになった自分に気が付き 天国の父に かぼちゃの煮付けを届けたいと思った
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