二十

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 すっかり大人しくなった共和国の使者を見送る。  侍女や召使の人だかりは徐々に散り、数を減らす。いつもの侍女も、失礼します、と一言告げると、食器を抱えて食堂へと消える。  皇帝も書庫へと向かおうとした時だった。皇帝を呼ぶ声に気が付いた。 「こちらにいらっしゃいましたか。探しました」  文化大臣だった。戻ったばかりなのだろう。膝に手を付き、息を切らす。少しばかり呼吸を整えると大きく深呼吸をした。 「陛下、今からでもお時間を取ってくださるそうです」 「わかった。すぐに向かおう。お前も来い、文化大臣」 「しかし私は先ほど陛下に承認いただいた計画を進める予定が――」 「来るのだ、文化大臣。急ぐ必要のある計画でも無かったと記憶しているが。それともこの私よりも重要な人と会う約束でもしておるのか?」 「いえ。そのような事はございません。陛下に同行させていただきます」 「それでよい。すぐに行くぞ」  二人は建物の外に出て馬車に乗る。文化大臣が、帝国大学にお願いします、と言えば馬がゆっくりと歩き出した。 「それで、お前が紹介した学者は普段はどんな研究をしておるのだ?」 「民俗学の中でも、神話学に強い興味を持っております。口伝にのみ残る神話も多く、世界各地を己が足で歩き回って収集している人物です。異世界神話にも深い興味があるようで、日本神話やギリシャ神話、北欧神話も研究対象としています」 「黒死龍伝説は誰もが知り得る伝承だ。魔法陣についても知見がありそうだな」 「科学的な面ではわかりませんが、次につながるヒントは必ず得られるでしょう。先生も、ぜひ陛下とお話ししたいと言ってらっしゃいました」 「話が早くて助かる」  馬車はやがて大学に着く。いつものように学長と加えてもう一人、補佐官と変わらぬくらいの、若い男が待っていた。 「わざわざ出迎えんでも良かったものを。お前も暇では無かろう」 「いえいえ、陛下には日頃からお世話になっております。出迎えくらい当然の礼儀です」 「押しかけたのは私の方だ。礼儀など気にせんでもよい」  皇帝と、文化大臣は馬車を降りる。お前が、と若い男に目を向ければ、彼は深く頭を下げた。 「このお方が民俗学の先生でございます」 「はじめまして、皇帝陛下。ご活躍はかねがね」  頭を起こす。民俗学の学者は穏やかな笑みを浮かべるも、皇帝は取り立てて反応せず、さっさと建物へと向かう。学長は民俗学の学者と共に、慌てて皇帝の行く先を示した。
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