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「行け、勇者よ。見事魔王を倒して参れ」  いかにもな王宮の広間で、絵に描いたような王様が、定型文のようなセリフを言う。  だがその王様の御前に恭しく控えているのも、これまたティピカルな勇者だった。  勇者は名前をオルティンといい、今から二十年前に世界各国の神官たちから正式に『予言の子』として認められた由緒正しき勇者だ。その予言というは言うまでもなく、世界を滅ぼさんとする魔王を倒すというものである。  それは彼が十歳の誕生日を迎えた日、王宮からの伝令が彼の家にと届けられた。以来十年間、剣と魔法と策略の手ほどきを受けて過ごしてきた。  両親はそんな境遇を嘆き、友人たちは羨望の中に憐れみの感情を抱いていた。  しかし、当の本人はどこ吹く風でその十年を過ごしてきた。  それも当然と言えば当然である。もしも単なる神の悪戯で勇者として崇め奉られたというのであれば、そんな同情を買う事も仕方ない事なのだが、彼は自ら望んで勇者となったのである。それは彼自身が生まれてくる前から決まっていたのだ。  オルティンには他人には言えない秘密があった。彼にはこの世界に生まれてくる、それ以前の記憶が残っているのだ。  ◇  前世での彼の名は小池正弘。三十五になっても尚、うだつの上がらない平凡なサラリーマンだった。そんな彼は残業を終え、家に帰る途中に交通事故に巻き込まれあっけなく命を落とした。眠っているのか起きているのかすら分からないような、ぼんやりとした状態がしばらく続いたかと思うと、目の前に青白く光る球体が現れた。  その球体は小難しい話がつらつらと並べたのだが、掻い摘んで言うと、  一つ、自分は間違いなく死んでいる。  一つ、可哀相だから別の世界に生まれ変わらせることが決まった。  一つ、条件を満たしているから生まれ変わる際の種族、職業、望んだ能力を一つずつ選択できる。  という事らしい。  それから再びまどろっこしい話がくどくどと始まったのだが、端的に言うと、  一つ、この世界には剣と魔法が存在しており、個々にレベルというものが設けてある。  二つ、長年の戦争による疲弊で生活と文明の水準は然程高くない。元の世界での中世期程度のレベルと考えて差し支えない。  三つ、この世界には敵対し合う人間と魔族、そしてそれらに中立的な立場をとる亜人という種が生活をしている。  四つ、世界を救う勇者が来ると予言をしてしまったので、是非とも勇者になってもらいたい。  という内容だった。  かくして小池正弘は勇者として生を受けたのである。
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