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「いや、私と禅さんは、そんな関係では……」
お姉さんの背中に言ったつもりが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。寝室の中が急に静かになり、禅さんとなんだか気まずくなった。
「ご、ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。もう大丈夫なので、一人にしてもらっても構いません」
匂いを気にしていた自分を思い出し、禅さんに告げる。このままずっと彼に腰をさすらせるわけにもいかない。
「気にするな。全部、梓から聞いた」
「駄目ですって」
駄目だって言っているのに、禅さんは布団の中に入ってきて、私のことを後ろから軽く抱き締めた。
この人は理解のある男性だったけれど、少し、恥ずかしい。心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「早く良くなれ。お前に仕事を用意してやる」
病気じゃないけれど、同等に労ってくれているのだけは分かる。
「それと、俺に隠し事はするな」
その声は、珍しく冷たくはなかった。いつもは幸薄貧乳とか言うくせに、こんなときに頼れる人になるなんて、あなたは本当に私のことをどう思っているんですか?
流川さんがおかしなことを言うから気になってしまう。聞かなかったことになんて出来ない。
「……」
でも、私は何も答えなかった。ただ、只管に寝たフリに徹した。禅さんが私につられて眠ってしまうまで。
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