攻防戦は女湯で巻き起こる

7/25
前へ
/197ページ
次へ
「いや、私と禅さんは、そんな関係では……」  お姉さんの背中に言ったつもりが、既に彼女の姿は見えなくなっていた。寝室の中が急に静かになり、禅さんとなんだか気まずくなった。 「ご、ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。もう大丈夫なので、一人にしてもらっても構いません」  匂いを気にしていた自分を思い出し、禅さんに告げる。このままずっと彼に腰をさすらせるわけにもいかない。 「気にするな。全部、梓から聞いた」 「駄目ですって」  駄目だって言っているのに、禅さんは布団の中に入ってきて、私のことを後ろから軽く抱き締めた。  この人は理解のある男性だったけれど、少し、恥ずかしい。心臓の音が聞こえてしまいそうだ。 「早く良くなれ。お前に仕事を用意してやる」  病気じゃないけれど、同等に労ってくれているのだけは分かる。 「それと、俺に隠し事はするな」  その声は、珍しく冷たくはなかった。いつもは幸薄貧乳とか言うくせに、こんなときに頼れる人になるなんて、あなたは本当に私のことをどう思っているんですか?  流川さんがおかしなことを言うから気になってしまう。聞かなかったことになんて出来ない。 「……」  でも、私は何も答えなかった。ただ、只管に寝たフリに徹した。禅さんが私につられて眠ってしまうまで。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1493人が本棚に入れています
本棚に追加