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冷たい瞳と視線が合致して、一連の流れが全てスローモーションになる。
弧を描くことなく、ゆっくりと真っ直ぐに飛んでいく青い煌めきの宝石。元から冷めていたのに、さらに冷え切り、怒りが増していく禅さんの瞳。そして、しまった……! という風に変わっていく私の表情。
ポチャンっ
指輪が池に落ちた音で再び時が正常に回り出す。
「駒田都築……!」
禅さんがとても怖い顔をしている。果たして、勝手に攫われたことに怒っているのか、指輪を投げ捨てたことに怒っているのか、どちらなのだろうか? ただ、確実に怒っていることだけは分かる。
「禅さ……」
廊下に立っていた禅さんが私の方にスタスタと歩いてきて、私の右手首を掴んだ。
「鍵は閉めておけと言ったよな?」
どうやら指輪のことよりも先に私が不用心だったことを責めるらしい。
「言われました。だから、ドアは開けていませ、ん」
今は屁理屈返しをしてはいけない時間だったようだ。物凄い般若みたいなオーラで禅さんが私のことを睨み付けてきた。
――そうだ、元の運転手さん、私の所為でヘマして始末されたんだった……。じゃあ、私も……?
「私、どうなりますか?」
「連れ帰る」
恐る恐る尋ねてみると禅さんはそう言って、私の手を引き、廊下を歩いて行こうとした。けれど、途中でピタリと止まり、元来た方に戻って、和室のお父様に声を掛けた。
「俺の物に二度と近付くな、クソが」と。
そして、また長い足が動き始め、操り人形のように私の足も必然的に一緒に動く。しかし、
「お待ちなさい」
五歩ほど進んだところで前から声がした。
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