攻防戦は女湯で巻き起こる

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 ◆ ◆ ◆ 「これで六道組は安泰ね、禅さん」  豪勢な和の料理が並べられた机を挟んで向かい側、禅さんのお母様がおしとやかな笑みを浮かべて言った。黒い着物と綺麗に結われた黒い髪が印象に残る人だ。  廊下で禅さんを呼び止めたお母様が「せっかく久しぶりに帰って来たのだから、お食事くらいして行きなさい」と誘ってくれて、そこにどこからか私と禅さんが来ているという噂を聞きつけて梓さんも合流し、家族で食事ということになった。  そして、現在、旅館みたいに大きな禅さんの実家で、旅館で出される懐石料理みたいに豪華な食事を戴いている。 「お母さん、良かったわね。産まれるのは男の子かしら?」  私の前に座っている梓さんがニコッと笑いながら言った。別に私と禅さんはそういう関係ではないというのに、話だけが勝手に進んで行ってしまう。  認めない、と言っていたお父様は何も言わないし、何か言える言葉は無いか? と私が無言の禅さんの隣で必死に考えていたら、先にお母様が口を開いた。しかも、それは私に対してではなかった。 「あなたは子を産めないのだから、口を出すんじゃありません。黙っていなさい。この恥知らず」  おしとやかな表情が一変して、お母様が冷たい瞳で梓さんに言った。どうして、梓さんに酷いことを言うのだろうか? 子供を産めないって? 理由は分からないけれど、黙っていられない。 「あの」  お箸を置いて、私はお母様の方をジッと見た。   「なに?」  氷のような視線が私に刺さる。それでも、言わなければ。 「失礼ですけど、どうして梓さんにそんなことを言う必要があるんですか? 子を産むだけが女性の存在意義ではないですよね? 子供を産めるからって何か偉いんですか?」  女性は子供を産む道具ではない。私の言ったことは間違っていない。生きている意味が分からなくても、それだけは分かる。 「あなた、母親になる私に向かって、生意気な……!」  鬼のような形相で、お母様が両手を机の上でグッと握り込んで、とても怒っているのが目に見えた。 「私は母親なんて存在、最初から知りません」  だから、私が認識しなければ、あなたは母親でもなんでもない。 「ッ……! やっぱり、禅さんとの結婚は認められません!」 「別に結構です! 元から結婚するなんて一言も言っていませんし、禅さんには“一ミリも”興味がありませんから!」  ――こっちから願い下げよ!  勢い良く座布団から立ち上がって、私は「失礼します」と部屋から出た。
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