攻防戦は女湯で巻き起こる

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 手に浴衣のセットを二着分持っているところを見ると、禅さんもお風呂に入ろうとしているらしい。でも、こっち女湯なんですけど! 「男湯は隣ですよ?」  ――ご実家だから分かると思いますけど。ただの凡ミスとか、梓さんに頼まれて私の浴衣を届けに来てくれたということなら、別に良いんですけど、まさか一緒に入ろうとは思ってないですよね? 「関係無い。これで清掃中だ」  真顔で言って、清掃中の黄色いお馴染みの看板を禅さんが扉の外に出した。  ――思ってらっしゃる! 梓さんに騙された!   「わ、私、あとで一人で入ります!」  パタパタと駆けながら、扉を目指す。つまり、禅さんが立っている方だ。 「待て」 「一緒に入るなんて聞いてないですよっ」  首根っこを掴まれて逃亡を阻止され、泣き言を言ってしまう。 「たしか、俺はお前の罰を貯蓄していたな……」  まるで今思い出したかのように禅さんが言う。でも、とてもわざとらしい。 「ずるいですよ、ちゃんと謝ったじゃないですか!」 「さっさと服を脱げ」  全然聞いてくれない。もう逃げられない。しかし、私は諦めない。 「……分かりました。先に脱いで入ります。でも、見ないでください」  服を入れるカゴとは全く違う方向である脱衣場の角を指差しながら私は言った。 「見ないでください」  大切なことなので二回言いました。 「はあ……」  深い、それはもう深い溜息を吐きながら、俺様は私を解放し、そちらを向いた。 「見ないでください!」  私がカゴに近付き、そろそろと服を脱ぎ始めると、禅さんが少し動いたので三回目の警告をした。どうして、私はこの人と一緒にお風呂に入らないといけないのか、と常備されていたバスタオルを身体に巻き、そそくさと風呂場への扉をカラカラと開けた。 「ふぅ……」  振り返らずに扉を閉めて、ほっと一息吐いたけれど、すぐに禅さんが入ってくるのではないかと思い、急いで身体にお湯を掛けて、湯船の端に入った。勿論、扉の方に背を向けた状態で、だ。 「わぁ、素敵なお風呂ー」  ドキドキと鳴る心臓を胸に、辺りを見渡して、檜の湯船だとか、黒い石の床だとか、ちょっと凝った電灯だとか、あまり普段見ないもので気持ちを落ち着かせようとした。 「……っ!」  無理だった。カラカラ、という音に身体がビクッと跳ねる。
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