攻防戦は女湯で巻き起こる

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 すぐに禅さんの気配がお風呂場に入ってきて、こちらに移動してくるのが分かった。近くで掛け湯をし、何故か、彼が私の隣に入って来ようとしたため、私は体に巻いたタオルを片手で押さえながらザバンッと湯船から立ち上がった。 「逃げるな」  そのまま洗い場の方に逃げようとしたけれど、腕を掴まれて制止された。止められることは予想出来ていたけれど、横に立つ彼のことはまったく見ることが出来ない。 「離してくださ――」 「俺に慣れろ。じゃないと、あとがツラいぞ?」  掴んだ私の手を自分の胸元に当てて、禅さんが言った。チラっと肌色を見て、視線を全然違う方に逸らす。逞しい胸板を通して、彼の鼓動が聞こえる気がした。 「あ、あとって、そういうことですか? 禅さんが私を飼っている理由って、六道組の跡取りを産ませるためなんですか?」  質問に質問を重ねて繰り出す。禅さんの言葉にドキドキしてしまった。きっと、私のことを物だとしか思っていないに決まってるのに。彼のお母様と同じ、私のことを子供を産む道具だと。  そうだと思ったのに、禅さんはすぐに「違う」と答えた。 「じゃあ、何なんですか?」  目を逸らしたまま、ムッとした顔をしてやる。道具じゃないなら何なのか。私の中では、既に言葉が予想されている。その言葉とは「憐れみで愛玩動物として飼ってやっている」だ。 「俺に言わせるのか?」 「他に誰が言うんですか?」  ふん、という感じで強気の態度を見せる。あなたが言えないのは、少しでもその言葉が人を傷付けるものだと分かっているからでしょう? 「……だ」  ぼそりと呟く声が聞こえた。残念ながら私には何も聞こえない。クソ、とか文句を小さく言う人は最低な人だ。もし、禅さんが今、それを言っているなら、だけれど。 「なんです? 文句を言うにしても、もうちょっと大きな声で言ってもらわないと聞こえな――」 「好きだ」 「へ? ……んぅ」  突然、濡れた手に頬を包まれ、キスをされた。禅さんが言い放った言葉が私の幻聴でなければ、彼は今、私のことを、好きだと言った。
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