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◆ ◆ ◆
目を開けると天井の木目が見えた。どうやら、私はお風呂で逆上せて倒れてしまったらしい。しっかりとふわふわのお布団に挟んで寝かされていた。
「大丈夫か?」
ぼーっとした頭で声の方を見る。なんだか微妙な表情をした禅さんが隣に座っていて、私の額に手を当てた。その間に、黒色の浴衣がとても似合っている、と思う。
「禅さん、私……」
何も言うことはないけれど、何かを言いたかった。でも、やっぱり言葉は見つからなかった。中途半端で言葉が切れてしまう。
「すまなかった。もう無理にはしない」
大きな手が私の額から離れていき、何故か、少し寂しいと思ってしまった。その手にさっき、あんなにも恥ずかしい思いをさせられたというのに……。
「今夜は一人で休め」
そんなにぼそぼそと言わなくても良いのに、禅さんは急に立ち上がって部屋から出て行こうとした。
「禅さん」
「……」
私が名前を呼んでも禅さんの動きは止まらない。寝起きの声が少しガラガラとして綺麗ではないからだろうか?
「禅さん」
こほんっ、と咳払いをして喉を整えて、もう一度呼んでみた。
「なんだ?」
今度は、ちゃんと動きを止めて返事があった。「戻ってきてください」と言うと、また何かを言われそうな気がして、自分の横の畳を叩いて、彼を呼び戻そうとしてみた。
「なんなんだ?」
眉間に皺を寄せて、不機嫌そうな顔をしながらも禅さんは私の横に戻ってきた。私は、この人に仕返しがしたい。何度も私に意地悪をしたのだから。
「禅さん、我慢してるんですか?」
お風呂で禅さんは我慢をしていると言った。そして、さっき、もう無理にはしないと言った。だから、仕返しをするなら今なのだ。
「同じことを何度も言わせるな」
――つまり、肯定と取っても?
身体を起こして、ジッと禅さんの目を見る。反撃開始だ。
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