あなたにさよならと言わせてください

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「もしもし、広美ママ? ごめんね、色々あって、今月の分を入金出来てなくて」  電話に出て、すぐに私の方から言葉を口にした。  広美ママとは私の居た孤児院の院長先生で、小さい時から私を育ててくれた人だ。院を出てから少しではあるけれど私の方から仕送りをしていたのだが、今月は色々とあって、入金が出来ていない。それを今電話が掛かってきて思い出すなんて、私はなんて怠け者で馬鹿なのか。 「ううん、もう良いのよ」 「え?」  耳に当てたスマホから広美ママの悲しそうな声が聞こえて、思わず聞き返す。 「院ね、今月で閉鎖になるのよ」 「どういうこと?」  何か事件でもあった? 私がお金を送れなかったから? それとも建物の老朽化で、どこかに転院とか? 「……それだけ伝えたかっただけだから」  ぼそりとママはそれしか言わない。 「私に何か出来ることはない? 何が原因なの?」 「……」  まだ電話は繋がっているけれど、ママは押し黙ってしまって、気配だけを感じる。 「言ってよ、ママ」  声が聞こえないだけで、とても不安になった。私の声にそれが表れていなければ良いけれど。 「……資金不足なの。このまま続けたら皆が路頭に迷ってしまう。子供たちを引き受けられないの」  変わらない声音でママが言った。ずっと、ずっと悲しそう。いつも、あんなに明るかったのに。 「そんな……」  私が一人で生きていけるまで育ててくれた院が無くなってしまう。家族の家が無くなってしまう……。 「都築ちゃんが元気そうで良かった」 「待って、それって資金があれば院を続けることが出来るってこと?」  今にもママが電話を切りそうになって、私は言葉で引き止めた。 「そう、ね……」 「いくら? いくら必要なの?」 「……」 「ここまで言ったんだから、最後まで教えて」 「……800万くらい、かな……」  とても言い辛そうにママが声を絞り出したのが聞こえた。 「分かった。私がなんとかしてみる」  そう言って、私は電話を切った。何も言われないようにするためだ。このまま電話を繋げていたら、きっと止められていた。無謀だってことは分かってる。でも、私は家を守りたいんだ。家族を守りたい。 「800万……」  なんとかしてみると言ったは良いけれど、どうしようか、と数字を呟いてみる。800万は取り敢えずの数字だろう。本当はもっと必要なはず。 「何かお困りで?」  私の電話を聞いていたのか、突然、後ろから誰かに声を掛けられた。
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