1494人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
「なんだ?」
流川さんが不思議そうな顔をする。今さら、これを聞いてどうするのか、と言われれば何も答えられることはないけれど、それでも最後に知りたくなったのだ。禅さんのことを。
「どうして、禅さんは眠れなくなったんですか?」
禅さんが不眠症になった理由を。
「それは……」
流川さんは一度、そこで口を閉じて、息を深く吸ってから再び口を開いた。
「私の口からは言えない。私は若の世話係であって、それ以上の人間ではない」
本当は真実を知っていて、話したいという顔をしている。でも、深追いはしてはいけないのだと、その苦しそうな表情を見て、同時に思った。
「分かりました。お世話になりました」
深く頭を下げて、私は店から出た。
――どうか、いつか幸せであってください。……さよなら。
最初のコメントを投稿しよう!