あなたにさよならと言わせてください

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「なんだ?」  流川さんが不思議そうな顔をする。今さら、これを聞いてどうするのか、と言われれば何も答えられることはないけれど、それでも最後に知りたくなったのだ。禅さんのことを。 「どうして、禅さんは眠れなくなったんですか?」  禅さんが不眠症になった理由を。 「それは……」  流川さんは一度、そこで口を閉じて、息を深く吸ってから再び口を開いた。 「私の口からは言えない。私は若の世話係であって、それ以上の人間ではない」  本当は真実を知っていて、話したいという顔をしている。でも、深追いはしてはいけないのだと、その苦しそうな表情を見て、同時に思った。 「分かりました。お世話になりました」  深く頭を下げて、私は店から出た。  ――どうか、いつか幸せであってください。……さよなら。
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