鈍感な女は不器用な男に奪われる

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 ファミレスを出てから私は寝る場所を探していた。最初は仕事を探そうと思っていたけれど、もう日付が変わりそうだし、季節は春だと言っても夜は冷える。どこか死なずに眠れる場所を探さないといけない。  しかし、所持金は元々持っていた8000円と小銭、それと流川さんが持たせてくれた彼のクレジットカードだけだ。出来る限り、カードは使いたくない。指輪を売ることも考えたけれど、何故か、どうしてもそれは出来なかった。  ――ならば、やっぱり……公園で野宿……。  そう思って、かろうじてバッテリーの残っているスマホで近くの公園を検索すると、私の周りには三つ存在していることが分かった。私は、その中で今居る場所から一番遠くて、一番広い公園を選んだ。  冷える公園の中を縦断して、ベンチに向かう。段ボールも何も無くて、流川さんに言われたことは守れないかも、と思った。このまま寝たら、死ななくとも風邪を引きそうだ。こんなに外で生きることが過酷だとは……。  取り敢えず、ベンチに腰を下ろして、歩き疲れた自分の足を労ろうと思った。そんなときだ。 「何かお困りで?」  ポツンと公園の端に一つだけある滑り台の上から声がした。 「冗談だよ。君がここに来ると予想していた」  暗闇の中、黒いシルエットが滑り台から滑って降りてくる。声だけでも分かった。岩倉さんだ。 「どうして分かったんですか?」  ベンチに座ったまま、私は岩倉さんの行動を目で追った。 「急に追い出されたら、大半の人間はここに来るしかない。霧島社長のマンションからも一番遠い。無意識にトラウマから離れたいと思うのは人間の本能だね」  真っ直ぐに私の方に歩いて来て、岩倉さんはこちらに手を差し出してきた。 「一緒においで。君には悪いことをした。私も別に鬼じゃない。君に仕事と住む場所を与えよう」  公園の心許ない灯りの下で、彼はニッコリと笑った――。
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