鈍感な女は不器用な男に奪われる

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 分かってはいても、その場に長居すれば、コンビニに居る人たちも巻き込まれてしまうと思って、私は運転席に乗り込んで男性が後ろに乗り込んだのを確認して、車を再度発進させた。  コンビニから道なりに進んで五分ほど、ナビが細い横道に入るように指示を出してきた。  全部が私の勘違いかもしれない。それなら良い。でも、もし山の中で殺されて埋められるのだとしたら、このままでは誰にも見つけられずに朽ちていくだけだ。誰かが探して見つけてくれるとは思わないけれど、私がここを通った証拠を何か残さなければ……。  換気のために窓を開けたフリをして、私はさりげなく“証”を外に落とした。  木々の生い茂った細い道を進んでいくと、そこにはコンクリートの廃墟があった。学生が心霊スポットなどと言って楽しんでいそうな場所だ。廃墟であるにも関わらず、中からはライトの光が漏れている。  依頼人を送り届けることが私の仕事のはずだ、と思って私は車から降りず、男性が降りるのを待っていた。しかし、急に後ろの扉が開いて、誰かが男性を引き摺り出したのが見えた。 「やめろ! やめてくれ!」  外から男性の悲痛な叫び声が聞こえて、頭が真っ白になった。次は私……、そう思う前に私の横の扉が開いて、同じように黒い革手袋を嵌めた手に車外に引きすり出されていた。 「……っ」  叫びたいけれど、怖くて声が出ない。身体が無意識にガタガタと震え出す。 そのまま何も出来ずにずるずると乱暴に引き擦られて、私は男性と一緒に廃墟の中に連れ込まれた。 「鞄の中身を確認しろ」  男性をコンクリートの床に転がして、スキンヘッドの男が鞄を持って来た仲間の男に指示を出す。私も近くに転がされた。バクバクと脈打つ心臓を感じながら、辺りに必死に視線を巡らせる。  廃墟の中には五、六人の黒いスーツを着た男たちが居た。顔に大きな傷がある人とか、目付きから、ひと目で裏社会の人たちだと分かった。 「残りの金は、必ず近いうちに持ってくる! だから……うぐっ!」  床に転がされた男性が大きな声で叫んだけれど、スキンヘッドの男にお腹を蹴られて静かになった。 「うるせぇんだよ!」  そう吐き捨てて、男は鞄の中を覗き、「もう期限は過ぎた。おめぇに価値はない。死ね」と男性に銃を突き付けた。 「やめてくれ! 殺さないでくれ!」  パンッ  銃口から弾けるような音が聞こえて、男性が動かなくなった。死んでしまったのだと、床に広がっていく血だまりを見て、直感的に分かった。  ――コーヒーを捨てたのはわざとじゃなかったんだ。怯えていて落としてしまったんだ……。  あまりの恐怖にガタガタと震えながら、私は声を出すことも動くことも出来なかった。男性が動かなくなってから男たちの視線が一斉に私に向く。
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