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禅さんは私の目の前で人を殺した。彼の行動を正当化しようと思っているわけではないけれど、彼がそうしなければ私が男たちに殺されていたに違いない。そして、禅さんもまた家族を危険に晒すことになったに違いない。彼はすべてを守った。それが正しくあろうと、なかろうと。
「オールクリア!」
数分後、禅さんが言った通り、武装した警察官たちが廃墟に突入してきた。その中で数人、武装していない刑事さんらしき人が居て、そのうちの一人が真っ先に私の方に向かってきた。紺色のコートを着たスラッとした男性だった。
「人質確保! ――刑事の高見荘吾と言います。大丈夫ですか?」
仲間に私の安否を知らせて、その男性は私の肩に自分のコートを掛けた。よく見たら、禅さんと同い年くらいに見える。多分だけれど、この人が禅さんの言っていた『知り合い』の警察官なんだと思う。
「名前、言えますか?」
「名前……?」
急に尋ねられて混乱した。
「自分の名前は言える?」
ゆっくりと優しく尋ねられて、やっと答えを見出す。
「……こ、駒田、つづ、き、です」
まだ身体が震えていて、それと一緒に声も震えた。
「よく頑張ったね」
私を安心させるためか、刑事さんはにこっと笑った。そして、「こっちに担架持ってきて!」と救急隊員らしき人を呼んだ。
「これから少しだけ話を聞くけど、すぐに帰してあげるから」
担架に乗せられるときに刑事さんに言われた。その言葉にホッとして、同時に罪悪感に苛まれる。勝手に出て行ったのは私なのに、また禅さんのところに戻って良いのだろうか? と。
「こいつだけ自分で頭を撃ち抜いています。仲間を殺してから自殺したのでしょうか?」
「謎だな」
廃墟から運び出される直前に、金髪の若い男の死体を見ながら、他の刑事さんたちが話しているのが聞こえた。私は、どうか、禅さんの存在が誰にも気付かれませんように、と願った――。
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