鈍感な女は不器用な男に奪われる

13/16

1493人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
 ガタンッ 「おい! 大丈夫か!?」  何故か、曇りガラスの扉を開けて禅さんが立っていた。 「禅さん……っ」  思わず、床にへたり込んだままで彼に手を伸ばす。 「安心しろ、ここに居る」  シャワーのお湯が掛かることも気にせず、禅さんは手を取って、そのまま私を抱き寄せた。  ――不思議だ……、禅さんにこうされていると落ち着く。男の人の手が、怖くない。 「……禅、さ……、ごめんなさい……。禅さん……っ」  小さい子みたいに泣きじゃくりながら、私は謝罪の言葉を口にした。 「話を聞かなかった俺が悪い。すまなかった」  禅さんの言葉が彼の胸を通して、直接私の耳に流れ込んできた。 「流川には目を見て謝罪しろと言われたが、今はお前を離したくない」  さらにギュッと抱き締められて、心臓が小さく跳ねる。ドキドキと鳴るのは禅さんの心臓も一緒で、この音がまた聞けて良かったと思った。と、同時に心も頭も落ち着いてきて、禅さんのスーツがシャワーでびしょ濡れになってしまっていることに気が付いた。 「スーツ……」 「お前の所為でクリーニング行きだ。別に脱がしてくれても良いんだぞ?」 「へ?」  禅さんが突拍子もないことを言うものだから、思わず私は泣くことを忘れてしまった。 「俺が悪かったから、甘んじて罰を受けると言っているんだ」  とても偉そうで、今から罰を受けようと思っている人の態度じゃない気がする。いつも通りの彼に安心させられている私も居るけれど。 「それが罰なんですか?」 「俺は女の服は脱がしても、女に服を脱がされたことはない」  私がムッとした言い方をすると、禅さんの自慢気な声が上から降ってきた。  ――なんか、経験豊富って言われてるみたいでムカつくんですけど。でも……、なんか、ドキドキする、かも……。  禅さんの腕の力が弱まって、自分の意思で少し身体を離して彼の顔を見上げてみると、優しい瞳がそこにはあった。 「お前は俺のことだけ見ていろ」  禅さんの手が動いて、私の手を自分のスーツのボタンを外すように持っていく。
/197ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1493人が本棚に入れています
本棚に追加