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ガタンッ
「おい! 大丈夫か!?」
何故か、曇りガラスの扉を開けて禅さんが立っていた。
「禅さん……っ」
思わず、床にへたり込んだままで彼に手を伸ばす。
「安心しろ、ここに居る」
シャワーのお湯が掛かることも気にせず、禅さんは手を取って、そのまま私を抱き寄せた。
――不思議だ……、禅さんにこうされていると落ち着く。男の人の手が、怖くない。
「……禅、さ……、ごめんなさい……。禅さん……っ」
小さい子みたいに泣きじゃくりながら、私は謝罪の言葉を口にした。
「話を聞かなかった俺が悪い。すまなかった」
禅さんの言葉が彼の胸を通して、直接私の耳に流れ込んできた。
「流川には目を見て謝罪しろと言われたが、今はお前を離したくない」
さらにギュッと抱き締められて、心臓が小さく跳ねる。ドキドキと鳴るのは禅さんの心臓も一緒で、この音がまた聞けて良かったと思った。と、同時に心も頭も落ち着いてきて、禅さんのスーツがシャワーでびしょ濡れになってしまっていることに気が付いた。
「スーツ……」
「お前の所為でクリーニング行きだ。別に脱がしてくれても良いんだぞ?」
「へ?」
禅さんが突拍子もないことを言うものだから、思わず私は泣くことを忘れてしまった。
「俺が悪かったから、甘んじて罰を受けると言っているんだ」
とても偉そうで、今から罰を受けようと思っている人の態度じゃない気がする。いつも通りの彼に安心させられている私も居るけれど。
「それが罰なんですか?」
「俺は女の服は脱がしても、女に服を脱がされたことはない」
私がムッとした言い方をすると、禅さんの自慢気な声が上から降ってきた。
――なんか、経験豊富って言われてるみたいでムカつくんですけど。でも……、なんか、ドキドキする、かも……。
禅さんの腕の力が弱まって、自分の意思で少し身体を離して彼の顔を見上げてみると、優しい瞳がそこにはあった。
「お前は俺のことだけ見ていろ」
禅さんの手が動いて、私の手を自分のスーツのボタンを外すように持っていく。
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