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――分かってる。本当は、廃墟であったことから私の気を逸らそうとしてくれているのでしょう?
「目、瞑ってもらえませんか?」
「今さらか?」
「……ッ、見られてるとなんだか脱がし難いんです」
禅さんに自分の裸体を見られることは、もちろん恥ずかしい。ずっと、ずっと恥ずかしい。でも、それ以上に急に彼の服を脱がせだなんて言われて、いけないことをしているような気持ちになったのだ。
さっきまで怯えていたのが嘘みたいに、今度は別の意味で手が震える。羞恥と緊張だ。一瞬で私の心を持っていく。だから、禅さんはある意味、魔法使い……。
「閉じたぞ?」
「ほんとにちゃんと閉じました?」
「ああ」
禅さんに言われて膝立ちで確認してみる。確かに、その整った顔は目を閉じていた。
――禅さんが目を瞑っているだけで、すごくドキドキする……。
震える指先で、私は禅さんのジャケットのボタンを外し、まず一枚を剥ぎ取った。そして、白いワイシャツのボタンも外し、それも剥ぎ取る。鍛えられた胸筋や腹筋が露わになって、どんどんドキドキが速くなっていった。
ベルトを外してズボンを脱がす頃には、もうすでにドキドキがMAXで
「ど、どこまで脱がせば良いんですか?」
と尋ねている自分が居た。
「最後までだ」
「ちょ、禅さ……っ」
最後まで、と言いながら禅さんは目を閉じたまま私の身体に触れてきた。大きな手が腰に触れて、ビクッと身体が小さく跳ねる。
「俺が怖いか?」
ゆっくりと目を開けて、禅さんが私の瞳をジッと見つめた。手はずっと私の腰にある。でも、禅さんの手は怖くない。気持ち悪くない。
「……いいえ」
首を静かに横に振って、答える。禅さんの手は私に乱暴しない。腰から首に移動して、それから頬に移動して、彼は私の唇にキスをするのだと思った。
「私を抱くんですか?」
ーー少しだけ、怖い……。
「いいや。――お前が俺に心を明け渡してくれるまで我慢する」
私が色々なドキドキを胸に抱えて尋ねると、禅さんは私の額にそっと口づけをした。
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