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結局、「もどかしい、早くしろ」といつも通りの口調で禅さんは自分で下着を脱いだ。そして、身体が冷えてしまったからと二人で湯船に浸かって、何故か、出てから禅さんの黒いパジャマの上だけを借りた。大きいからワンピースみたいになっている。
「お前は何度捨てれば気が済むんだ?」
ベッドヘッドに寄り掛かって座っている禅さんに背中を預けていると、後ろから腕が伸びてきて、私の左手の薬指にサファイアの指輪を嵌めた。
「すみません」
謝りながら、その指輪をジッと見つめる。山奥で、細い横道を曲がる前に落としてきた“証”だ。禅さんは今なら、私がずっと気になっていたことに答えてくれるだろうか?
「禅さん」
指輪を指先で弄りながら、控え目に彼の名を呼ぶ。
「なんだ?」
私の左手を取りながら、禅さんが静かな声音で答えた。
「どうして、サファイアを選んだんですか?」
思い切って尋ねてみた。けれど、背中に感じる温もりは黙りで、何も答えない。
「適当、じゃないですよね?」
そこにサファイアがあったから、とか言わないですよね? そんな適当な理由だったら、何度も拾って来ないですもんね?
「はあ……」
不機嫌なのか、呆れているのか、禅さんは深く溜息を吐いた。それから、渋々といった様子で口を開く。
「お前に習って、価値じゃなく、意味やお前に合った色で選んだつもりだ」
――適当じゃなかった……。
「意味? 意味ってなんですか?」
どんな顔で言っているのだろう? と禅さんの顔を見ようとしたけれど、距離が近くてそれは叶わなかった。
「自分で調べろ」
そうぶっきら棒に言われて、私はサイドテーブルに手を伸ばして充電したばかりのスマホを取った。
「今、調べるのか?」
「だって、調べろって言ったじゃないですか」
信じられない、という雰囲気を纏った声に反論して、私はスマホのロックを解除した。すると、そこに一件のメールが来ていた。
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