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あの日から数日経つけれど、私はよく夢を見るようになった。見えない手に襲われる悪夢だ。ちゃんと眠っているはずなのに、目覚めると眠った気がしなかった。酷く魘されて、禅さんに起こされるときもあった。そして、今日も……
「都築ちゃん、大丈夫?」
私を心配して泊まりに来てくれていた梓さんに揺すり起こされた。どうやら、大分魘されていたようだ。
「すみません、梓さん」
隣で眠っていた梓さんの眠りを妨げてしまった。まだ陽が昇ってそんなに経っていないだろう。
「私は良いの。それより、私、禅に頼んでみるね」
「え?」
可愛くて少しセクシーなパジャマを着た梓さんが徐にベッドから降りて、リビングのソファで休んでいるであろう禅さんのもとに向かった。一体何を彼に頼むつもりなのだろうか? と、彼女の後をちょこちょことついていく。
「ちょっと、禅」
「なんだ?」
目を瞑っていても、禅さんは起きていた。胸の前で腕を組んで仁王立ちをする梓さんの声に反応して、不機嫌そうに目を開ける。
「都築ちゃんを外に連れ出してあげてよ。このままじゃ、嫌な記憶も薄れない。こんな所じゃ、全然良くない!」
「……」
梓さんの熱意の籠もった言葉に禅さんは黙って眉をひそめた。二人の様子を見て、私は後ろでわたわたしてしまう。だって、なんだか私の所為で姉弟喧嘩が始まりそう。
「デートよ! デートしなさい!」
急に私のことを前に出して、梓さんが言った。
「あず、梓さん……」
思わず声が小さくなる。デートなんてしたことないし、その言葉さえ、今までの人生で片手で数えられるくらいしか聞いたことがない。
「今、俺がそいつと一緒に外を歩くことは得策じゃない。却ってそいつが危険な目に遭う」
ソファから身体を起こして、気怠そうに禅さんが言う。
――却って、ってどういうこと?
そう思ったけれど、梓さんが先に口を開いた。
「じゃあ、私が……」
「お前もやめておけ」
実の姉の言葉を遮って、禅さんの顔が険しくなる。
「なら、どうするのよ? このままじゃ都築ちゃんが可哀想。あんたみたいになったら、どうしてくれるの?」
私の後ろで梓さんが少し苛立っているのが分かる。
――あんたみたい、って、もしかして、私の向かう先は禅さんみたいな不眠症……?
「あの……」
私が慎重に会話に割り込もうとしたときだった。
「考えが無いわけじゃない」
「「へ?」」
急に否定的だった禅さんが肯定的な意見に切り替えて、私と梓さんはほぼ同じタイミングで間の抜けた声を出してしまった。
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