それは突然に訪れるものです

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「どうも」 「え、あ、この前の刑事さん?」  あの日、私に良くしてくれた禅さんの知り合いの刑事さんが立っていた。確か、名前は―― 「高見荘吾です。君のことは都築ちゃんって呼んで良いかな?」  私が名前を思い出そうとしたら、先に言われてしまった。  今日の高見さんは黒のパンツに白シャツ、グレーのジャケットというカジュアルなスタイルで、この前とは雰囲気が違う。街ですれ違っても多分、気が付かないだろう。 「は、はい、この前はありがとうございました。――でも、どうしてここに? 禅さんに用事ですか?」  ――そういえば、禅さんはどこに居るんだろう?  キョロキョロと辺りを見渡すけれど、彼の姿はない。もしかして、すっぽかされた? 「あれ? あいつ何も言ってなかった?」  私の目の前で高見さんが不思議そうな顔をする。 「デート、する、とだけ……」 「あいつ、ほんとコミュニケーション能力低いな。――都築ちゃん、その相手、俺だよ」  この場に居ない禅さんに向かってぼそりと呆れたように言ったあと、高見さんは私に見えるように自分を指差した。 「へ?」  ――禅さんとデートじゃなかったの? じゃあ、禅さんはどこに? もしかして、自分は普通に仕事に行った? 「“お前、次、いつ非番だ?”って朝早くに禅から電話が掛かってきて、今日だけど、って答えたら、都築ちゃんとデートしてほしいって言われたんだよね」  困ったような顔をしながら高見さんが遠くを見ている。 「え、聞いてないです」  何かヒント的なものを貰っていただろうか? と頭の中をひっくり返してみたけれど、そんなものは微塵も見つからなかった。 「そうだよね。それが君のためだって禅は言ってたけど……俺が警察官だから、安心すると思ってんだろうな、あー、馬鹿だなぁ」  そう言いながら今度はくすくすと笑っている。 「なんか、すみません」  高見さんに向かって、私はぺこりと頭を下げた。  ――私の所為で、貴重なお休みが……。 「いや、都築ちゃんは何も悪くないよ。悪いのは全部、あいつ。不器用過ぎるよね。まあ、俺も人のこと言えなくて、仕事ばっかしててデートの仕方とか忘れちゃったんだけど、それでも俺と一緒にデートしてくれるかな?」  そう尋ねる高見さんは照れ臭そうな顔で微笑んだ。表情がコロコロと変わる。高見さんはとても表情が豊かな人だ。禅さんを『黒』だとすると、高見さんは『白』だな、と思う。 「私、デート……したこと、ないです……」  良いか、良くないか、なんて私じゃ決められない。せっかく来てくれたのだから、断りたくはないけれど、決定権は高見さんにあると思う。
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