それは突然に訪れるものです

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「ほんとに? じゃあ、お互い慣れない同士だね。取り敢えず、ドライブでも行く? 窓、ガンガンに開けて」  別に気を使っている感じもなく、彼は悪戯に笑った。 「良いですね、ドライブ」  気が付いたら乗り気になっていた。ドライブは嫌いじゃない。景色が次々に変わって、何も考えなくて良い。とても気晴らしになりそうだ。 「じゃあ、助手席どうぞ」  柱の横に停められていた黒のハマーを指差しながら高見さんが言った。ピカッとライトが光って、ロックが解除される。 「ハマーなんですか!? かっこいい……」  大きなタイヤにゴツくて四角いフォルムは実に格好いい。車が好きで運転代行をしていたということを思い出した瞬間だった。この好きは、もちろん人に対しての好きとは違う。 「都築ちゃん車好きなんだ? もしかして、運転したかった?」  運転席の扉を開きながら高見さんが尋ねてきた。私が、ジッとハマーのフォルムを見ていた所為かもしれない。 「いえ、人の車で事故を起こしたら大変なので」  慌てて扉を開けて、私は助手席に乗り込んだ。 ――もちろん運転したかった。でも他人の車での事故は怖い。 「そっか、分かった。今度は運転出来るように手続きしておくよ、保険とか」  運転席に乗り込みながら、高見さんは私にニコッと笑った。 「ありがとうございます」  また無意識だった。私は自然と笑顔になっていた。 「さて、どこをどう走ろうか? ご飯も食べないとだね、何食べようか?」 エンジンを掛けて、シートベルトを締めながら、どんどん話が進んでいく。 「そう、ですね……」  ――困ったなぁ、急に言われても外食は慣れていないから直ぐには答えられない。  そう思っていたら、隣で高見さんが何かを思い付いたような顔をした。 「ねえ、海鮮丼食べたあとに水族館に行ったら、可哀想な気持ちになるかな?」  一瞬、この人は一体真剣な表情で何を言っているのだろうか? と思った。そして、数秒考えて、その意味を理解した。恐らく、海鮮丼が食べたいんだけど水族館にも行きたい、と高見さんは思っているのだろう。 「いえ、私は別に気にしないです、多分」  そもそも、水族館は小学校の遠足で行ったきり、一回しか行ったことがない。どんな所だったかも、あまり覚えていない。 「じゃあ、そのルートで行こう」 「よろしくお願いします」  ゆっくりと車が動き出す。ここで会話が途切れてしまった。  思ってみれば、高見さんのことはよく知らない。おまわりさんだってことしか知らない。  何を話せば良いのだろう? と思っていたら、高見さんの方から「沈黙って、なんだか落ち着かないよね。だから、なんでも俺に質問して良いよ?」と言ってくれた。 「な、なんでも?」
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