それは突然に訪れるものです

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 頭の中を引っかき回せば、聞きたいことはたくさん出てくる。でも、本当に聞いて良いのか、何から聞こうか、と思考が闘い合う。 「禅のこととか、知りたくない?」  進行方向を向いたまま高見さんがさらっと言った。 「居ないのに良いんでしょうか?」  本人に内緒で色々と質問をするのは気が引ける。 「居ないのがいけないんだ。君はあいつに巻き込まれて、振り回されているんだから、なんでも知る権利がある。今、知らないことが不思議でならないよ」  高見さんは、目の前に居ない禅さんに対して少し怒っている気がした。高見さんと禅さんは一体、どんな関係なのだろう? ……そうだ、それをまず聞こう。 「じゃあ、お言葉に甘えて。――禅さんとはどういう関係なんですか?」 「んー、聞かれると思った」  高見さんからは「分かってはいたけれど、いざ聞かれたらなんだか照れ臭い」という雰囲気が感じられた。 「簡単に言えば、小中高一緒の腐れ縁かな。難しく長く説明すれば、最初、俺はあいつがヤクザの家系だって知らなくて、途中で知って、殴り合いの喧嘩をして、個人同士では和解したというか……、難しいな、えっと、俺の家は警察一家で、あいつは二個隣の家で偽りの家族と普通に暮らしてたんだよね。あいつん家は金持ちで、流川さんは兄弟ってことになってた」  話を聞いていたら、なんだか冒頭から複雑そうだ。 「それで、小中って、俺、身体が小さかったから、虐められてて、よく禅が助けてくれてたんだ。で、その間に仲良くなってて、まあ、餓鬼ってそんなもんでしょ? で、高校生になって身長も伸びて虐められなくなって、そんな時に禅が明らかにヤクザだって分かる男たちに連れて行かれようとしてたんだよね。路地だったかな。それで、助けようと思って、後を追ったら禅の家の組の人間で、俺はずっと騙されてたんだと思ってさ、一応正義の側の人間だから、禅と殴り合いの喧嘩になったんだ。それで和解して、家のことは関係なく、ずっと仲良くしてる、と俺は思ってる」  ――禅さん、小さい頃から組の稼ぎ頭になるように本当の家族から引き離されてたんだ……?  私は自然と頭の中で小さな禅さんが小さな高見さんと徐々に成長していく様子を思い浮かべていた。 「じゃあ、高見さんと禅さんは親友なんですか?」  彼の話を聞いていると、それ以外に無い気がする。 「俺は、そう思ってる」  そこで高見さんは言葉を切ったけれど、本当は続いていたであろう言葉なら安易に想像出来た。「あいつはどう思ってるかな?」だ。 「禅さんのこと、逮捕したりしないんですか?」  高見さんは、直接見ていないけれど、禅さんが人を殺したことを知っていると思った。 「どうして目を瞑ってるのか、って? あいつが勝手に捕まったときは知らないけど、俺からしたら禅はそんなに悪じゃないよ。あ、これ、内緒ね。職務怠慢で処罰されちゃうから、俺」  そう言いながら高見さんは、ははっ、と爽やかに笑っている。そして 「もちろん、あいつが本当に間違った方に行こうとしたら俺は止めるけどね」  急に真面目な顔になって、私は少し緊張した。ふとした瞬間に警察官としての顔が見える気がするのだ。 「さて、他にはあるかな?」  窓を全開にして、高見さんが大きな声で問い掛けてくる。ドライブ中の風は好きだけれど、新鮮な風が入ってきて、せっかく梓さんが整えてくれた髪が乱れてしまうと気が付いた。「すみません」と言いながら、少し自分側の窓を絞る。 「あ、ごめんごめん、配慮に欠けてた」  そう言って、高見さんも自分の横の窓を少し絞った。 「それで、他には?」  高見さんの声が聞き取りやすくなった。他に、と聞かれて、一つの質問が頭に浮かんだ。
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