それは突然に訪れるものです

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「あの……、禅さんについて、ずっと聞きたいことがあったんです。でも、誰も教えてくれなくて」  誰も、と言っても流川さんにしか尋ねていないけれど、禅さん本人には到底聞けなかった。彼のトラウマを抉ってしまう気がして。 「あいつが眠れなくなった理由でしょ?」 「え?」  自分が言う前に高見さんに言われてビックリしてしまった。この人は他人の心でも読めるのだろうか? 「でも、あいつ顔色良くなってたね。都築ちゃんのお陰なのかな?」 「あの……」  なんだか、高見さんが話を流そうとしている気がした。思わず、ちょっと待ってください、という雰囲気を出してしまう。 「もちろん知っているし、君に教えてあげたいよ。でもね、もうちょっと、君のことを知ってからにしようかな」  優しい笑みに少しだけ儚さが混じっている気がした。  この話については、誰も教えてくれない。皆が鍵を掛けるほど、禅さんにとって、大事な話なんだ。 「……分かりました」 「大丈夫、今日中には話してあげるよ。でも、今はデートを楽しんでほしくて」  なんでも聞いて良いと言っていたけれど、物事には順序があるみたいだ。 「ご配慮、ありがとうございます」  その会話をしたあと、車は海に着いた。海辺に海鮮丼のお店が六軒くらい固まっていて、そのうちの一軒でマグロとウニの海鮮丼をご馳走になった。  そこから少し車で移動すると、海岸のすぐ横に水族館があった。結構大きな水族館で、回るのに二時間は掛かった。途中でオットセイのショーとイルカのショーを見ていたからかもしれない。  お土産屋さんで、高見さんは私にチンアナゴの大きなぬいぐるみを買ってくれた。一応、遠慮はして一度は断った。でも、「禅には同じやつの小さなキーホルダーを買ったから」と笑いながら言われて、受け入れてしまった。私の一番のお気に入りがチンアナゴだった。 「あ、すみません、ちょっとお手洗いに行っても良いですか?」  ずっと言いづらくて、出口から出る前にやっと言えた。普段なら何の躊躇もなく言えるけれど、デートだと思うとなんだか言えなかったのだ。 「それ、俺が持ってるよ。気を付けてね」 「はい、お願いします」  大きなチンアナゴを高見さんに預けて、私はトイレに向かった。高見さんが入口で見てくれているから大丈夫。そう思っていたのに…… 「痛っ」  扉を開けて中に入った瞬間、誰かが勢い良く私にぶつかって来た。
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