それは突然に訪れるものです

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 倒れこそしなかったものの、真正面から強くぶつかって結構痛かった。 「すみません、彼氏に急かされてて、慌ててしまって……」  そう謝ってもらえていなかったら、せっかくのデートなのに酷く凹むところだった。その“誰か”は私に申し訳無さそうに深く頭を下げて、トイレから出て行った。髪の長い女性だった。目元はサングラスを掛けていて全然見えなかったけれど、綺麗な人だったな、と思う。  こちらが何かを言う前に去られてしまったのは悔しかったけれど、彼氏に強要されていたなら仕方ない、と思うことにした。私もいつか、彼氏に急かされるときが来たら良いな、なんて思ったりして……。  ちなみに、別にお金は入っていないけれど、財布も無事だった。それと正直、一瞬何かで刺されたのではないか、とヒヤヒヤした。私も無事だった。ただの日常の事故だった。 「お待たせしました」 「おかえり。少し、海でも眺めようか?」  高見さんは驚くほど切り替えが早かった。重いから、と私のチンアナゴのぬいぐるみを持ってくれて、浜辺に向かった。天気が良くて、まだ太陽も高いところに居て、波の音が心地良い。  海に来たのも運転代行を何度か頼まれたときだけだった。個人的には来ていない。海という場所がこんなにも綺麗なところだったなんて知らなかった。 「これで良し」  彼はお土産を買うときに大きなレジャーシートも買っていたらしい。ファンシーな魚柄のやつだ。それを砂浜の上に敷いて、彼は私に「どうぞ」と言った。ぬいぐるみは汚れてしまうから、と彼がずっと持ってくれている。 「寒くない? 俺のでよければ、これ」  そう言って高見さんは私の肩に自分のジャケットを掛けた。 「ありがとうございます」  あの日のことを少し思い出す。俯いてしまいそうになる。高見さんはそれに気が付いたようだった。さすが刑事さんだ。 「あのさ、君を安心させてあげたいから言うんだけど……」  そこで一瞬、言葉を切った高見さんは悩んでいるように難しい顔をした。
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