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それでも、高見さんは話を止めなかった。
「そうすれば、禅が本性を現わすと思ったんだろう。だが、あいつは何もしなかった。ただ、殴られて大怪我をしただけ。――あいつは強い。それでも、六道組の若頭だと誰にも知られるわけにはいかない。だから、何もせず、隠し通した」
高見さんはそれがまるで自分のことであるかのように苦しそうな表情をした。
「あとになって、二人を襲った奴らは“何者か”によって始末された。でも、禅は自分だけが生き残ったことを酷く後悔して、夢の中で彼女を見続けた。助けられなかったことで、彼女に責められ続けて、あいつは眠れなくなったんだ」
眠ろうとすると彼女が出て来て、毎晩、禅さんを苦しめる。「どうしてなの? 助けてくれると思ってたのに。あなたが助けてくれれば、私はまだ生きられたのに」そんな言葉が勝手に耳元で聞こえる気がする。声も、顔も、その言葉も知らないのに。
「今回、蓮葉組は都築ちゃんを傷付けることによって、禅の本当の顔を暴き、それを表に出そうとした。禅の本性が表に出れば、会社は傾き、その下にある六道組まで潰れる。奴らはそれを狙っているんだよ」
深く息を吐いて、高見さんが話を終えた。
「……」
禅さんに好きな人が居たこと、その人が彼の目の前で殺されたこと、今、私と彼が置かれている状況のこと……、ショックを受ける部分が多くて、何も言葉が出ない。
「大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込まれる。――高見さんの言う通りだった。
「禅さんに会いたいです」
とても禅さんに会いたくなった。今すぐに帰って、何の話もしなくて良いから、ただ、ぎゅっと抱き締めてほしい。抱き締めてあげたい。
「うん、帰ろうか」
優しい顔でそう言って、高見さんは自分のスマホを取り出した。そして、それを左右に軽く振った。
「君が帰ると言う前に禅から返せと催促が来ていたよ。自分から頼んでおいて、ほんと、我儘なやつだよね。堪え性無いし、笑えるな」
スマホを振ったのは、連絡が来ていたよ、というアピールだった。そのまま、高見さんが笑って、私も少しホッとした。
「あの……、誰が情報を流しているんでしょう?」
「分からないな。禅は細心の注意を払っているはずだけど」
観覧車から降りる直前、そんな会話をした。謎は残ったままだった――。
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