それは突然に訪れるものです

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 分からないから、もういいや。全部全部ひっくるめて、行動に移そう。 そう思って、私は今まで流川さんが座っていた椅子の上にぬいぐるみを置いて、ツカツカと不機嫌な禅さんの前に移動した。 「禅さん、私、これからちょっと禅さんをぎゅっとします」  彼を見上げて、さらっと言う。  ぎゅっとして、ぎゅっとしてもらいたい。たくさん苦しんできた禅さんを助けてあげる術は持ち合わせていないけれど、今は、ただ一緒に居てあげたい。居てもらいたい。  ずっとウズウズしていたことに気持ちを込めて。 「……なんだと?」 「禅さんをぎゅっとしたいんです」  やっと口を開いた禅さんに有無を言わせる前に、私は彼の身体に両腕を回した。口では「したい」と言っておきながら、私は既に行動に移している。  ぎゅっと抱き締めれば、禅さんの音が直接聞こえて、こちらもドキドキと呼応した。 「離せ」 「嫌です」  禅さんの複雑そうな声音に顔を見るのが怖くなった。私はふざけていると思われているだろうか? 「離せと言っているんだ」 「嫌です」  何度言われようと、今は離したくない。禅さんをぎゅっとすると気持ちが落ち着くのに、ドキドキして、離れたくないと思う。  ぎゅっと抱き締めて、自分の心に問うのだ。この気持ちは一体何なのか、と。 「離さないと出来ない」 「ふぇ? 何を……んっ」  急に言われて、一体何のことだろう? と顔を上げたら禅さんに唇を奪われていた。そっと触れるだけのキスから私を解放して、彼がぎゅっと抱き締め返してくる。 「好きだ。誰にも奪わせたくない」 「……っ」  禅さんが、あまりにも素直に本音を吐露するものだから、ぶわっと顔が熱くなった。 「私も、です……」  聞こえないくらい小さな声で呟く。  高見さんに笹塚真野という人の話を聞いて、私は禅さんを取られたくないと思った。心がズキズキして、もう亡くなっている人だって分かっているのに、取られてしまうと思った。  このドキドキと、この気持ちが奪われてしまうと思った。  ――私は、禅さんが、好きなんだ。これが好きってことなんだ……。
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