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「少し黙ってろ」
「ん……んぅ」
結局、彼は自分のことを言わなくて、キスを深いものに変えた。唇を軽く甘噛みされたり、角度を変えて吸われたり、上手く息継ぎのタイミングが分からなくて、頭がフワフワして、空気を求めて空けた隙間に舌が入ってきて……もう、ほとんど何が起こっているのか分からなくなった。
「……はっ」
唇が離れて、ジッと彼を睨み付けてしまう。キスだって初めてだったのに、という気持ちを込めて、だ。この歳で初めてというのは恥ずかしいことかもしれないから口に出しては言えないけれど。
「そんな瞳をするな。俺が悪いみたいだろう? 俺とのキスに溺れていたくせに」
意地の悪い瞳が鼻で笑う。
「誰が……!」
さすがに怒りたくなって私は吠えた。
確かに水に呑まれるみたいに空気を求めて溺れてましたけど、別にあなたとのキスには溺れてませんから!
押さえ付けられている腕に力を込めてみたけれど、まったくビクともしなかった。それなのに、急に彼は私の左手を解放した。
まったく、解放するなら早く解放しなさいよね、と思っていると彼は私の両手を器用に自分の左手だけで拘束してしまった。
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