偽りの花嫁は無を巡る

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 数十分後、私があまりに泣きじゃくって離さないものだから、禅さんは困り果てて流川さんを呼んだ。 「若はお前のことを思って、自分もツラい決断をしたんだ。分かるだろう?」  禅さんの背中から離れない私に、流川さんが横から優しい声音で言い聞かせてくる。 「……はい」  小さい子みたいな扱いをされて、やっと、私は少し落ち着きを取り戻した。 「なら、お前も若のためを思って諦めてあげてほしい。――そうだ、最後に一つくらい願いを聞いてもらったらどうだ?」  右手の人差し指を立てて、流川さんが提案してきた。「ね? どうでしょう? 若」と禅さんの顔を覗き込んでいる。どんな反応をしたのか、私には見えなかったけれど、数秒後に流川さんが「良いそうだ」と言った。  急に「願い」と言われても困る。もう一緒に居ることは出来ない。だから、本当は勇気を出して「私を抱いてください」と言いたかった。でも、思い出して、きっとあとでツラくなる。  それなら――
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