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一度止めていたエンジンを掛け直し、ピーピー、ピーピーという音が鳴り響く。
「何よ? この音」
――やっぱりだ。この人は気が付いていない。
「そちらの扉が少し開いてるっていう音です。でも、あなたは私を殺したあとに逃げるんですよね? 開いていると分かっていた方が良いんじゃないでしょうか?」
私は怯えた様子で控え目に言ったつもりだ。
「あなた、本当に変ね」
そのお陰か、彼女は私の方と前方をチラチラと確認しながら「早く出しなさい」と言った。
――大丈夫、まだ大丈夫、気が付いていない。
「……っ!」
車をゆっくり発進させると見せかけて、私は勢い良くアクセルを踏み込んだ。幸い、前後に他の車は停まっておらず、一気に直進することが出来た。
「なにす……っ」
笹塚真野が動こうとした瞬間、今度は急ブレーキを踏む。彼女は“シートベルトをしておらず”、フロントガラスに顔面から突っ込んだ。それで意識でも失ったのか、銃が床に転がり、彼女は動かなくなった。
これは私の想像ではあったけれど、禅さんと同じならば、いつも後ろに座っているであろうあなたには分からなかっただろう。車の中で鳴っている警告音が扉が開いているサインではなく、助手席の人がシートベルトをしていないときに鳴るサインだということに。
「舌、噛みますよ?」
でも、これで終わらすつもりはない。私には銃の引き金を引く覚悟だってある。もう一度、アクセルを踏み、端から端に向かって、どんどん加速していく。
今、気が付いた。私が死にたくなかった理由は、誰かを守る前に逝きたくなかったからだ。死ぬ前に誰かを守りたかった。誰かの役に立ちたかった。これが、私の生きていたい理由だった。たとえ微力でも、私が禅さんを守る。
――禅さん、愛しています。
「……ッ!!」
車は真っ正面から地下駐車場の太い柱に突っ込んだ。勢い良くエアバックが開いて、真っ白な視界の中で全身に衝撃が広がる。右も左も、上も下も分からない。ただ身体が痛くて、徐々に、徐々に意識が薄れ……
「……ぃ!」
薄い意識の中、声が聞こえた。
「おい! 目を開けろ!」
いつの間に、私は車外に出されていたのだろうか? 私を抱いて必死な顔した禅さんの後ろに、柱に突っ込んで大破した車が見えた。
「死ぬな! 頼む……! 俺が悪かった……、俺が悪かったから……、死ぬな、都築……!」
禅さんが、悲しそうな顔をしている。でも、生きてる。
「……わ、たし……、は……死な、……な、ぃ……」
掠れた声で、ちゃんと言えただろうか?
――禅さん、私はずっと、あなたの好きな私で居ます。好きです。愛しています……。
「都築! おい、都……」
プツンと全てが途切れて、何も聞こえなくなり、何も見えなくなった――。
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