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◆ ◆ ◆
「都築ちゃん、何作ってるの?」
キッチンで料理をする私を後ろから抱き締めながら、愛しい恋人が言う。
「今日の夕飯は、荘吾さんの好きな焼きそばです。ちゃんと野菜も食べてくださいね?」
フライパンの中身を見れば、夕飯なんて安易に想像が出来るというのに、荘吾さんは私との会話を大切にするように、わざと尋ねてくる。今日は貴重な彼の非番の日だからだ。
「分かりました。――それで? 身体は大丈夫? 足と腕は、まだ痛い?」
ふざけて、まるで上司に返事するみたいな言い方をして、それから彼は私の身体を心配するように言った。
「いえ、もう大丈夫です。病院で全治一ヶ月と言われた通り、完全に治ったみたいです」
コンロの火を消して、くるりと身体の向きを変え、彼に笑い掛ける。
一ヶ月前、私は仕事で事故を起こした“らしく”、手足の骨にヒビが入るなどの大怪我をした。そして、私には今も……記憶が無い。
荘吾さんのことも本当は覚えていなくて、彼のことを知ったのは、目覚めたときだった。それは一ヶ月前に遡る……。
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