偽りの花嫁は無を巡る

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 病院で目が覚めると、私にはたくさんの管が繋がれていた。身体のあちこちが痛くて、かろうじて出せる声も掠れていた。 「駒田さん、今、先生呼んでくるからね?」  見知らぬ女性の看護師さんらしき人にそう言われて、駒田さんって、誰のことだろう? と思った。 「駒田さん、これ見える?」  病院の先生が来て、私の目に小さなライトを当ててきた。それが眩しくて、目を細めてしまう。 ――私は一体、何をされているのだろうか? 私の身に何があったのだろうか? 「目は大丈夫そうだね。声は出る?」  ライトを白衣の胸ポケットに仕舞って、先生が言う。 「……はい」  尋ねられたから、そう答えた。目覚めたばかりだからか、あまり上手く物事が考えられない。 「自分の名前は言える?」  ぼーっとする頭で先生に尋ねられたことを整理してみる。  ――私の名前って、なんだっけ……? 「思い出せない?」 「はい……」 「何か覚えていることはある?」  先生が黒縁眼鏡の向こうから質問を投げかけてくる。 「……分かりません……、っ」  思い出そうとすると、何故だか、とても頭が痛んだ。 「大丈夫、無理はしなくて良いよ。ゆっくり思い出していきましょう」  そう言われて初めて、私は記憶を失ってしまったんだと気が付いた。  そこから身体を起こせるまで五日掛かって、その日に訪問者が来た。 「駒田さん、婚約者の方がお見舞いに来てくれたわよ?」 「私の、婚約者……?」  看護師さんに言われて扉の方を見ると、顔も知らない背の高い男性が立っていた。
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