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「都築ちゃん、大丈夫? ごめんね、先生に止められてて、すぐ面会に来れなくて」
男性が私のベッドの横に来て、椅子に座り、申し訳無さそうな顔でこちらをジッと見つめてくる。でも、私は黙って、ぼーっとした顔をしてしまった。
空っぽの頭が混乱している。この人は、一体誰なんだろう?
「あ、ごめん。覚えてないんだったね。俺の名前は高見荘吾、職業は警察官です」
私を安心させるためか、彼はにっこりと笑った。
「高見、荘吾さん……」
今聞いたばかりの名前を自分でも呟いてみたけれど、やっぱり聞き覚えはなかった。
「それに、君の婚約者だよ。もうすぐ結婚式を挙げる予定だったんだ」
――この人と私が……? 駄目だ、思い出せない。
「……っ」
思い出そうとして、また頭が痛んだ。
「大丈夫? 無理しないで。急いで思い出さなくて良いよ」
優しい瞳が私を心配している。
「でも……」
婚約者の顔を忘れてしまうなんて、私は最低だ。
「良いんだよ。たくさん待つし、君のことは俺が支えていくから」
私に手を差し出しながら、彼は言った。その言い方から、この人は本当に私の婚約者なのだと思った。
「ありがとうございます、荘吾さん」
きっと、私は彼のことをこう呼んでいたんだと思った。
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