偽りの花嫁は無を巡る

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 夢を見たときは不思議に思ったけれど、荘吾さんが自分で好物だと認めたのだ。私はそれ以上疑うことなく、この一ヶ月で数回焼きそばを作った。  そして、冒頭に戻る。 「明日のことなんだけど」  キッチンで私のことをジッと真面目な顔で見つめる荘吾さん。 「大丈夫、覚えていますよ」  また私が忘れたと思っているのだろうか? と、ふっと笑う。 「本当に良いの?」 「これ以上、荘吾さんを待たせるわけにはいきませんから」  優しい荘吾さんを待たせるわけにいかない。  今日は彼の貴重な非番の日。でも、明日はもっと貴重な日。私と荘吾さんは、明日、教会で結婚式を挙げる。親族の居ない私のことを考えてくれて、式は私と荘吾さんだけで執り行われることになっている。ヴァージンロードで隣をエスコートしてくれるのは、結婚式を管理してくれる会社の方だ。 「そっか。――結婚したら、広い部屋に引っ越そうって考えてるんだけど、どうかな?」  控えめな声で荘吾さんが提案してきた。 「本当ですか? そしたら、猫を飼っても良いですか?」  思わず、期待の眼差しを向けてしまう。今住んでいる部屋はペットが禁止で猫が飼えない。 「本当に猫を飼いたいの?」  器用に片眉を上げて、荘吾さんが疑いの眼差しを向けてくる。もちろん、ふざけてそういう顔をしているってことは分かっている。 「無性に飼いたいんです。白くて美人の女の子」  理由は分からないけれど、とても飼いたい。 「こだわりが強いんだね、考えておくよ。――それより……」  荘吾さんの大きな手が急に私の両頬を包み込んだ。 彼が、私に怪我のことを確認したのは、私の身体に触れても大丈夫か確認したかったからなのだろう。彼は優しいから、ずっと私に触れなかった。  そして、今、私にキスを…… 「荘吾さん」  彼の綺麗な形の唇に、私は人差し指を添えた。 「明日に取っておきませんか? その先も全部」  なんとなく違う。今ではない気がする。だから、今日は――。 「ごめん、急ぎ過ぎたね。俺、ちょっと電話してくるよ」  照れたように笑って、荘吾さんはキッチンカウンターに置かれていたスマホを持った。 「電話?」 「するって約束してたの忘れててさ。ご飯、先に食べてて良いから」  にこやかな表情でそう言って、彼はベランダに出て行った。私に電話の内容を聞かれたくないのか、きっちり窓まで閉めて。  ――もしかして、怒らせちゃった? いや、荘吾さんがそんな心の狭いこと思わないか。  彼が電話をしている間、私はダイニングの椅子に座って焼きそばを食べずに待っていた。一人で食べるご飯より、誰かと食べるご飯の方が美味しく感じる気がするからだ。それに単純に好きな人を置いて食べるのは、なんとなく嫌なのである。 「都築ちゃん、ちょっと良いかな?」 「なんですか?」  暫くして、荘吾さんの声がして、私は顔を上げた。 「俺の友人で、君を知っている人が君にお祝いの言葉を贈りたいって」  視界に私にスマホを差し出す荘吾さんの姿が映る。
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