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「私に?」
「うん」
「でも……」
「大丈夫だよ。はい」
私には記憶が無いし、と躊躇っていると荘吾さんはそっと私の手にスマホを手渡してきた。
「もしもし?」
私もベランダに出て、恐る恐る電話に出てみる。
『もしもし? 駒田都築さんですか?』
すぐに応答があって、どこかで聞いたような声がした。でも、どこで聞いたか思い出せない。
「はい」
取り敢えず、無言は良くないと思って、それだけ答えた。
『突然、申し訳ありません。霧島貿易会社の霧島禅と申します。この度、ご結婚されるということで、お祝いの言葉を贈らせていただきたく、彼に電話を替わってもらいました』
とても印象の良い声が、電話の向こう側で言葉を並べていく。
――霧島、さん……? どうして、わざわざ?
「えっと、はい」
ずっと答え方が分からない。これで失礼はないだろうか?
『では、贈らせていただきます。――高見荘吾はとても人情味に溢れた男です。きっと、あなたのことも心から大切にしてくれることでしょう。二人の、幸せに満ちた新たな門出を心より……、お祝い申し上げます。ご結婚おめでとうございます』
「ご丁寧に、ありがとうございます」
どうして、途中で一旦止まったのだろう? と思ったけれど、記憶の無い私には深く聞くことが出来ない。会話を伸ばすことが、とても怖い。
『そして、もう一つ。贈る言葉をある人間から預かっているんです。彼は感情を表わすのが酷く苦手で、言葉も態度も悪くて、少々お聞き苦しいかと思いますが、どうか、最後まで聞いてください』
もう電話は終わりだと思ったのに、他の人からもお祝いの言葉があるらしい。私は、どこで、誰と一緒に居て、何をしていたんだろう? 周囲の人は、私のことをどう思っていたんだろう?
「……分かりました」
彼の声音にとても感情が籠もっていて、聞くべきなんだと自分の頭が言っている。私は返事をして、彼の言葉を待った。
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