1494人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
『――駒田都築、夜は眠れているか? 俺は……まあ、それなりだ。お前もそうか? 思い出してみれば、お前は餓鬼くさくて、酷く騒がしかったな。うるさいのが居なくなって、ここはとても静かだ。居なくなって清々している』
――私、その人にすごい迷惑を掛けていたのかな? 怒られている気がする。
『それから、お前は記憶を無くしていて覚えていないと思うが、壊した車の金は後で請求させてもらうからな。高い利子付きだ』
――もしかして、私が起こしたのって、接触事故だったりするのかな? この言葉の人は、事故の相手?
『最後に、俺はお前の……、いや、やめておこう』
何故か、霧島さんはそこで言葉を切ってしまった。手紙でも読んでいて、そこにそうやって書いてあったのだろうか? それとも独断で?
「なんですか?」
『……』
私が尋ねても、電話口からは言葉が返ってこない。
「最後まで言ってください。お願いします」
気になって、気が付いたら必死に懇願していた。すると、向こう側で言葉を紡ぐ気配がした。
『――俺はお前の幸せを一番に願っている』
聞こえたのは、とても優しい声音だった。
「……っ」
全体的に全然、お祝いの言葉という感じではなかったのに、何故か、とても涙が溢れてきた。言葉だけなら、とても酷いことを言っている。私のことをお前だとか言っているし、でも、何故だか感情の波が止まらない。
――その人は、一体、私の何なんですか?
『では、本当におめでとうございます。どうか、末永くお幸せに。失礼します』
「えっ」
一方的に電話を切られてしまって、私は涙を流しながら間抜けな声を出してしまった。
「どうしたの? 何か思い出した?」
窓を開けて部屋の中に入ると、荘吾さんが駆け寄ってきた。
「いえ……っ、思い出せないんですけど、凄く悲しいんです……」
凄く悲しくて、聞いたことのある声なのに、どこで聞いたか思い出せなくて、頭が痛い。私の脳が、何かを思い出そうとしてる。
最初のコメントを投稿しよう!